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オタク、線をまたぐ  作者: 物理試す


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アラスオート-5

「大丈夫か?ほらを肩を貸せ。」

そう言いながらイアンが俺の肩を持つ。ロールさんも駆け寄ってきて肩を貸してくれた。

牛型の魔獣が足を止めているため、今のうちに全員撤退することになった。

森の中を駆け、急いで沼を離れる。少し時間が経って足の力が戻ってきた。

まだ魔術は使えないけれど自分で走ることはできそうだ。

「大丈夫だ、イアン。そろそろ自分で走れる。」

「そうか、それにしてもすごかったな。さっき、雷が落ちたみたいだったな。魔術を使うとあんなことができるんだな。」

興奮したように聞いてくる。

流石に説明できるほど力も暇も残っていないので簡単な相槌を返しておく。

そうこうしているうちに森を抜け、開けた場所につき、最初に逃げていた集団に追いつく。

森の入り口には馬車が用意してあったので、後はあれに乗れば逃げ切れるだろう。


・・・しかし、いや、やはり魔獣と言うべきか、どうやったのか、はたまた単純な体力や回復力なのか・・・後ろからとてつもない速度で来ていた。

イアンだけが、たまたま気づくことができた。いやロール隊長や俺が気づいた時には、そのとてつもないスピードのせいで、すぐ後ろに迫っていた。

咄嗟のことだったのだろう。

イアンは俺を突き飛ばした。・・・代わりにイアンが付き飛ばされた。

俺の目の前を飛んでいくイアン・・・と分かれた彼の片腕。

何が起こったかわからず、しばらく動くことができなかった。

魔獣が唸り声をあげ再び、こちらを向く。

ロール隊長は大剣を振り下ろし、魔獣に切りかかった。

魔獣はどうやら電撃でかなりのダメージを負っていたみたいで、その一撃で角をへし折った。

いつまでも止まってはいられない。

ごちゃごちゃ考えるのは後にして、イアンと彼の腕を持って馬車に走り出す。

魔獣はその場に止まり、こちらを睨んでいる。よく見ると目もダメージを負ったようだ。

「状況は悪い、このまま逃げるぞ。」

ロールの掛け声と共に、皆が動き出し、俺やイアンそしてロールを乗せて馬車は走り出す。

魔獣は動き出すことなく、その場にとどまっていた。

あれほどダメージを負っているなら追撃したいところだが・・・イアンの治療が優先だ。

馬車の中へ進みイアンの様子を観察する。意識がなく、片腕からドクドクと血が流れ、明らかに顔色が悪い。


調査隊には回復の魔石を使える者は少なく、一般的な応急処置ぐらいしかできない。

残りのやつも、ケガをした若い隊員を回復している。


早く回復の魔石を使わないと!俺は魔石を取り出し、治療を開始する。

だけど、魔石が発する光は弱い。それもそのはずだ。さっきの大技で体の魔素を使い切ってしまっている。

魔素の回復を待ちたいところだが、そんな暇はない。

激しい頭痛がする。

四の五の言ってはいられない。構わず魔石を使い続ける。

体中に悪寒が走り、全身がきしむような痛みが走る。やはり頭痛が一番ひどい。

その反面、回復の魔石は強く光り輝き流血が収まり傷口が塞がっていく。

まだイアンの意識は戻らない。

より出力を高める。・・・戻ってこい。お前は実家を継ぐんだろ!

どんどん出力を高める。馬車の中にまばゆい光が満ちる。誰もがイアンを見ているため気づく者はいない。魔石を使用する彼の目がいつもと違い濃淡が薄くなったり濃くなったりしていることに・・・

どれくらい集中していたのだろうか?声をかけられるまで気づかなかった。

「タロウ君、もういい。君も相当青い顔をしているよ。」

それはイアンの声だった。

その声を聴いて安心できたのか、そのまま気を失ってしまった。


気づいた時には2日経っていた。起きた時、リルカとコイルが心配そうに、こちらを覗いている。

「大丈夫?タロウ。」

リルカが優しく話しかけてくれる。俺はもうろうとする意識の中、質問をする。何日寝ていたのか?あの後どうなったのか?そして何人亡くなってしまったのか。

その質問に、ちょうどよく入ってきた、ロール隊長が答えてくれた。

結局、日数としては丸一日寝ていたぐらいなこと、俺が意識を失った後は魔獣に追われることなく逃げ帰ってこれたこと、以降魔獣の所在は分からない事。

イアンは片腕を失ったものの治療のかいがあり、一命をとりとめたこと。そして調査隊の若い4人が亡くなった事が伝えられた。

「そうか、4人は助けられなかったか・・・」

「気にするでない、彼らは命令違反をして死んでいったのだ。むしろワシとしてはイアンを救ってくれて感謝したいところじゃ。」

「それは、できることを、したまでです。」

ロール隊長は光と暗闇が波打つ曇り空を眺めながら淡々と話していた。

「タロウは回復次第、討伐組に加わってもらおうと思っている。何人か失ったが、おかげでヤツの行動パターンを知ることができた。沼に潜っても問題ない特徴に対しても対策を打たねばならん。ヤツにお前が撃ち込んだ攻撃のダメージが残っているうちに叩く。」

そう言いながらロール隊長は部屋を出ていった。

「とうとう魔獣と闘うんだね。」

「そうか、リルカは魔獣との戦闘は初めてか。」

俺はベットに寝ころびながら答える。

リルカは戦闘に参加するわけではない。あったとしても後方で傷ついた兵の治療だろう。しかし今回はアラスオート中から精鋭が集まっていると聞いている。

出番はない

それでも、まじかに迫る戦闘の流れを感じ取っており、不安になっているようだ。

「大丈夫さ、今回は味方も多い、そこまで大変なことにはならないと思うよ。」

「それでも、何人かは死んじゃう可能性があるんでしょ、今回の調査でも何人か死んじゃったみたいだし、タロウもボロボロになってるし。」

「うっ それは面目ない。そうだな今度は気を失わないで返ってくる。これでどうだ?」

「約束だよ!」

「ああ、分かった。」

「そいつは俺とも約束してもらおうかな。」

それまで黙って聞いていたコイルが話しかけてくる。

「年頃の娘さんを悲しませるとは、お前も中々罪な男だな。ほらこれを受け取れ。」

そう言って数枚の紙を渡してくれた。そこには牛型の魔獣についての報告が書かれている。

「どうして・・・と言うよりどうやってこれを?」

「何、簡単な話だ。この国も一枚岩じゃないという事だな。ギルドや政府以外にもあの魔獣を疎ましく思う者、上手い事利用して、有利な立場に付こうとするもの千差万別という事だ。」

まだ働きの悪い頭を必死に働かせながら、考える。

「つまり、俺たちのほかにあの場で観察したり、事前に調査していた人たちはいたってことか?」

「まっ簡単に言えばそうだな。あのギルド長もそれについては分かっていたと思うぞ。」

コイルは今分かっていることを参考に、対策を練ったり生存確率を上げるような行動を取れと強く言う。ありがたい限りだ。

それと、あの電撃についても案外、多くの人間にみられているかもしれないな。魔獣を討伐できたら、長居せず直ぐに出発したほうがいいかもしれない。


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