アラスオート-1
タロウ達は砂と固い地面が混ざり合った道を、魔導三輪に乗りながら緩やかに移動していた。
のどかな風が吹き、天気が良く非常に心地が良い。
タイヤにつけていた砂かきも外し、普通のタイヤで走行しているので地面の振動を感じることがちょっと不快なくらいだろうか・・・
「よう~やく新しいものが見えてきたよ。」
リルカは荷台の上で両ひざを伸ばし、後ろの壁にもたれかかる。
同じ景色に見飽きたのだろう。気持ちは分からないでもない。
ルーナ村を出てからは永遠に続くかと思うほどに砂漠が続き、特に新しいものは見つけられなかった。
サンドワームたちも数体見受けられたが、すでに戦闘の経験があった事や獰猛だった時期が終わったのか激しく襲ってくることは無かった。
特に何もすることが無い砂漠では暇で精神的にかなりきつかった。しかしそれも終わり。
茶色い砂漠から草木が生い茂る緑色の地帯に入った。と言っても背の高い木々は生えておらず、細々とした木が生えている程度で見晴らしが良い。
ところどころ草木がなく、地面の色が悪い。
「不思議か?これから行く街にある昔話がゆらいかもな。」
俺が辺りを見回しているとコイルが横から覗くように疑問に答える。
「昔話?」
「そうだ。それこそお前が追っている勇者伝説だぜ。」
「それはぜひ聞かせてくれないか?」
「いいか。昔話はこうだ。伝説の魔獣たちを追っていた勇者たちは魔石採掘都市アラスオートにて伝説級の中でも最強と呼ばれる魔獣と対峙した。そいつは天の黒目と呼ばれている。」
「くろめ?なんだそいつは」
「姿については諸説ある。体は蛇だともいわれているし、城よりも大きく白く光り輝く炎を吐くとか、大空を飛びとてつもないスピードで飛び回る。飛んだだけで辺り一帯が吹き飛ぶと言われている。」
意味不明だ。
城ほどもある巨大な生物が羽をつけた程度では飛行できない。それに炎を吐く生物など・・・それっぽいのは何体か会ったな。
全く持って未知の生物だな魔獣とは。一体どのような仕組みで存在しているのだろうか。
「天の黒目と勇者との闘いは熾烈を極めた。空には光る川が走り、雲が割れ、地面が揺れ動いたそうだ。辺り一面が燃え盛り、何もかもが灰と化したそうだ。結局、勇者の強力な一撃により大けがを負った天の黒目はこの土地から逃げ去ったそうだ。その際、天の黒目はこの土地に呪いをかけた。」
「昔話なのにやけに現実味を帯びた話だな。それにお話なのに幸せな終わりではないな。」
「そこらへんがこの状況を説明できそうだろ。」
黙って聞いていたリルカも参加してきた。
「という事はこの残念な自然は、その時の名残っていう事?もう400年もたってるんだよ。」
「流石に昔話だ。今じゃ著名な学者先生たちが土が悪いとか雨がとか、いろいろ言っているが俺にはわからない。でも、だからこそ信じたくなるだろ?天の黒目の呪いってやつを。」
「のろいねぇ~」
俺は静かにつぶやき、また辺りを見渡す。
そんなものが本当にあるのだろうか?自然環境を何百年もの間、変化させ続けるような魔獣がいるとは考えにくい。
魔獣だからあり得るのだろうか?でも砂漠の遺跡では封印のようなものもあったし・・・
こういう昔話にはつきものだが自然災害を置き換えて伝承していることは良くあることだ。
実際はそんな物の類ではないだろうか?自然が乏しいのも学者が言うように地質的な問題では?
「次に行く街はアラスオートってところだっけ?どんなところなの。」
リルカが身を乗り出して聞いてくる。ちなみに今、魔導三輪を運転しているのはコイルだ。
3人で旅をしているとそれぞれがそれぞれの役目をこなさないといけない。
俺自身は周囲の警戒を行えるので、荷台に乗って常に2種類の探査魔術を使いこなし魔獣や盗賊がいないか確認していた。
はっきり言ってかなり疲れるが、魔術の良い練習と思って、率先して力を行使していた。
とはいってものどかな平原が続くだけの現状。魔術を放っても何も帰ってくることは無かった。
無駄話に花が咲く。コイルには魔素を込めるだけ運転が行える魔導三輪を運転してもらっている。
リルカはというと、色々と経験や実力が足りないので少しずつ学んでもらっている。
まずは、ほんの少しだけ使えた回復魔石をしっかりと使えるようになって、自分の回復を行えるようにしてもらっている。
呑み込みが早く、かなりのペースで成長していた。
これができたら次は何の魔石を使えるように練習してもらおうか・・・目くらましとして光の魔石を覚えてもらってもいいし、低級の火の魔石を攻撃に使えるようになってもいいな。
しばらくのどかな道を進んでいると、辺りには霧が立ち込めてきた。かなり濃い霧なので、一旦止まることにする。
「霧が出てきたな。と言ってもいつまで霧が立ち込めているかわからない。幸いにもコイツは速いし、お前がいる。どうだい?突っ切るというのは?」
「俺も同じ考えだ。運転を引き続き頼む。」「さんせーい」
そのまま荷台を引いた魔導三輪は次第に濃くなっていく霧の中へ突っ込んでいった。
霧はかなり濃い。視界は数メートルもないほどだ。途中で探査魔術に反応があった。
「! どうする逃げるか?」
反応を見ていたコイルが聞いてくる。見る限り反応はそんなに大きくない。探査魔術を発動してから返ってくるまでにそれなりにタイムラグもあった。という事はかなり距離が離れているという事でもある。
経験則より、それほど脅威はないだろう。
「まだ、大丈夫だ。早く進んで街に近づこう。そっちの方が人が多いはずだ。」
魔導三輪は力強く進んでいく。事前にコイルが手に入れていた地図によると、この先は平坦な道が続き、アラスオートにたどり着くことができる。
途中に大きな川がある。
この霧は川から発生しているものと考えられる。
まだ川が見えてはいないが、そろそろ到着するはずだ。探査魔術はいまだに反応はあるもののどんどん小さくなっている。
問題がないことは分かっているが心配になる。
目先が見えていないというのはこんなにも心配になることなんだと、こっちの世界に来てからひしひしと感じる。
元の世界にいた頃は実感しなかったことだが、分からないとは恐怖なんだと体に入る力が教えてくれる。
冷たい霧が体に触れて冷えてくる。
次第に物がぶつかり合い、こすれるような鈍い音が聞こえてきた。
途端、視界が急激に開けて目の間に大きな川が広がった。
水位は低いが大量の水がゆっくりと幅広く流れている。辺りを見渡すと大きな石造りの橋を見つけた。アーチ状の構造が何個も繰り替えされているつくりをしている。
「ほおー立派なもんだな。初めて見たが聞いていた以上の代物だ。」
コイルが感嘆を漏らす。
確かに立派な橋だ。数百年後には歴史的な建造物として認められそうなものだ。リルカの方を見てみると・・・口をポカンと開けて、しかし楽しそうな表情をしている
探査魔術の反応は完全に消えていた。
橋へ移動しゆっくりと歩いて渡る。川のせせらぎ音が辺りに響き渡る。
この川は400年前もこの場所を流れていたのだろうか?であるならば勇者たちがどうなったかおしえてほしいものだな。
リルカは初めて見る光景に喜び、橋の中を自由に走り回る。
後ろから俺とコイルが歩いてついていく。
「楽しそうだな。」
「ああ、村の外へ連れ出して正解だった。」
「アイツを見ていると昔の自分を思い出す。それからいいことも、たくさんの失敗もしたが何とか生きている。おかげで情報屋として食ってる。」
「俺も同じだ。旅を始めた頃を思い出すよ。」
元気にしているかな、
アイツら。ある商団を思い浮かべた。川に冷やされた風が心地いい。
橋を渡り、ごつごつとした岩が転がる道を行く。また一日ほど進むと、遠くに大きな構造物が見えてきた。
あれが次の目的地、アラスオートだ。
そう言えばここまで来るまでに小さい村や畑を見なかったな。いきなり都市に入るのだろうか。
正門に近づくとその様相がはっきりと見えてくる。正門は石造りで何処でも見るような西洋の門作りだ。高さは2~3mぐらいで長くどこまでも続いている。
街の全域をこの門で囲んでいるのか?
「止まれ!そこの3人組 ここら辺では見かけに顔だな お前たち、この先には都市がある 何が目的だ」
「俺達は冒険者ギルドに所属している者です。アラスオートで依頼を受けるために移動しています。」
こういう時、冒険者という立場は便利だ。大抵の街にこれでは入れてしまう。俺は話しながら冒険者ギルドに所属している証であるギルド証を見せる。
「確かにギルドの証 少し待て。」
そう言って門番の一人は門の中に入って行き、中で何か話しているようだ。
「なんだ?お前の冒険者証があれば何も問題がないはずだが?」
コイルは近づいてきて小声で話しかけてくる。確かに今まではすぐに通してもらえることが多かったがどうしたのだろうか。
そんなことを思っていると冒険者証を持って門番が戻ってきた。
「すまない。時間をかけたな、確認がとれた通っていいぞ。」
何だろうか?少し怪しみながらも問題なく通れそうなので辺りを見渡しながら通った。
門を過ぎてからは徐々に小さい家や畑が見えてきて城内で稲作が行われていることが分かる。
この町がどれ程の大きさを持っているか分からないけれど城内で稲作するなんて大した量はとれないのではないか?
他の2人も辺りを見回している。
「初めてこの町に来たが、何だかさっぷけいな場所だな~」
コイルは思ったことを口にする。確かに城門の中に入ったというのに人が少ない。それに門に入る前に見えていた大きい建物は、しばらく進んでいるというのに大きさが変わらない。
予想以上に広いようだ。
なんだかんだで半日をかけて街の中心部までたどり着いた。街の中心部には流石に人口が多く、活気があった。
色々な人が行きかっている。だけどなんだろう?少しぴりついているだろうか。そんな雰囲気を感じる。
とりあえず、いつも通りギルドが所有している宿泊施設を借りてその日は休むことにした。明日からはさっそく400年前にいた勇者の痕跡を探索していこう。
ベッドの中で次の日の予定を考えていると次第に瞼が重くなり気づけば寝ていた。その様子をみられているとも知らずに・・・




