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オタク、線をまたぐ  作者: 物理試す


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ルーナ村-7

「なるほど、魔素を増幅するなにかねぇ。それがあれば外に漏れだす魔素を吸収してどこから特定できると・・・ちょうどおあつらえの物があるじゃねぇか。」

「? そんなものあったか?」

そう聞くとコイルはバックから小瓶に入ったドロッとした物を取り出した。

「忘れたのか?液体魔石だ。コイツは一説には魔素を増幅する効果があるって話なかったか?」

話を聞いた俺はハッとしてすぐに手持ちの液体魔石を取り出した。

使い方は全く分からないのでとりあえず魔石に塗って、コイルに魔石を発動させて様子をみた。しかし結果は何も変わらなかった。

「そんなに都合よくなんでもできるわけではないか?」

コイルはおどけたようにしゃべりすぐに酒盛りに戻っていった。しかし俺は諦めなかった。諦めたくなかった。何かが繋がるような気がしたから・・・


思い出せ

どうして魔素を増幅する効果があるなんてわかったんだ?遺跡ではどうして液体魔石で壁画が書かれていたんだ。

壁画は繋がっていない場所がいくつもあった。それなのに魔素は伝達されて、壁中に流れていた。どうしてそんなことができるんだ。?

俺は必死にスケッチしてきた壁画を見返す。やはり途切れている部分は多い。不可思議な模様が描かれているだけだ。

何度も何度も同じスケッチを見返す。見落としが無いように、どの線がどの線につながっているのか、線の太さはどうなのか、一つ一つ端から端まで見ていく。

気づけば、日が沈み、また昇ろうとしていた。


分かるとは不思議な物だ。

それまでは全く思いつかなかったのに突然すべての線が繋がり一つの川となる。

魔素を流し込む供給口に共通の模様が描かれていることに気が付いた。

そこには円を中心とした模様が描かれており、この模様が線が途切れている部分の多くに見られた。

もしかしたらこの模様が魔素を伝達するのに都合がいいのかもしれない。

明け方の一番暗い時間帯に人の動き回る音がしていたが、いつの間にか静かになっていた。

「ん~、ああ、またやっちまったか・・・」

酒で酔いつぶれたコイルが寝ぼけた目をこすりながら、辺りを見渡す。と言っても特に大きな変化はなく、ここ最近よく目にする光景が広がっていた。

ただ一部を除いて、明らかに汚れていた。辺り一面には魔石の破片や液状の魔石が散らばっており、その中でうずくまるようにタロウが寝息を立てていた。

「おい、タロウ、そんなところで寝るな。たく、俺よりひどい状況で寝ているなんてどんだけ執着しているんだ。んっ?」

コイルはタロウが握っていた丸い形をしていて変な模様が描かれた魔石が埋め込まれた板を見つけた。

「なんだこれ?」


コイルはその板を手に取りよく観察する。

板の中央に円形の不思議な模様が彫られており、その中に遺跡で見たような壁画の材質が流し込まれている。

観察しているとタロウが起き上がってきた。

「タロウこれは?」

「ああ、そいつは・・・うまくいった。」


俺はコイルが持っている板を受け取りにやりと笑った。

「これは・・・これが魔素感知ができる魔道具だ。」

「魔素感知!?本当にそんなものができたのか・・・嘘だな。世界各国の軍が全力で研究していることを、たった一人で作れるわけがないだろ。」

「うそじゃない。ちゃんと機能するよ。」

「だったら、試しに使ってみてくれよ。」

コイルはニヤリと笑い、荷物をあさる

「いいけど、どうやって試すんだ?」

「そんなもん、簡単よ。」

コイルはそう言って手のひらサイズより少し小ぶりな魔石を二つ取り出した。一目見てわかった低級の火魔石だ。

「この二つの魔石を持ってどちらかにだけ魔素を流す。火の魔石だ。見た目の変化は起きない。タロウ、お前は離れたところから、その道具を使ってどっちに魔素を流しているか当ててみろ。」

「分かった。それでいこう。」


そう言って俺達は部屋の隅にそれぞれ移動した。

コイルは両腕を左右に広げ、いいぞと言う。

魔素感知ができる板をコイルに向かって構える。


俺は昨日の夜を思い出す。

これは光の魔石をベースとしたものだ。魔素を上手く感知できれば、薄っすらと光るはずだ。使い方にはコツがいるが・・・。

コイツは空間を漂う魔素を吸収する。大前提として他人の魔素をはっきりと認識できるくらい魔術や魔石の扱いに長けている必要がある。

しかし空間に漂う魔素を検知するには多大な労力を必要とする。一回吸収を行えば体力のほとんどを消費してしまうぐらいだ。これでは現実的に使い物にならない。


そこで遺跡にあった壁画だ。あの壁画には魔素を流し込む部分があった。その部分に集中して観察していると特定の模様が描かれている事が分かったのだ。さらに模様は魔石に接着されている。

その模様を板に彫って液体魔石を流し込み、魔素を込めると驚くべきことに液体魔石が魔石に固着したのだ。あの壁画以上に固くなっている。


理屈は分からないが、円の模様は魔素を収集する効果があるらしい。それにより空間に散らばる魔素を収集し魔石の中に入れることができるようだ。

これらの要素が集まったおかげで魔素移動を行う要領で空間に散らばる魔素を魔石の中に収集し、その濃度の違いから魔素のだいたいの方向が分かるというものだ。

俺は魔素吸収を始め、コイルの広げられた腕を右腕から順になぞっていく。右腕は何の反応もなかった。左手に差し掛かった時、加工した魔石は光り輝いた。その光をコイルに見せる。

「正解は?」

コイルはにやりと顔をゆがませて腕を突き出し、

「正解だ。」

それは魔石が光り輝いたほうの腕だった。

「すげー、本当に作っちまうなんて。コイツは革命だ!」

「言いすぎだよ。でもこれで魔素移動の技術をより効率よく教えられるかも。」

「何言ってんだよ。せっかくできたんだ。一番高く買ってくれる軍に売ろうぜ。それだけで大金持ちだ。一生食うものに困らないぜ」

「う~ん。それはしないつもりなんだ。色々あってな・・・」

「どうしてだ?それだけでお前は世界の英雄だぞ。」

「俺は人のためになるように物を作っているんだ。人を殺すために作っているんじゃない。」

「そんなもん使う人間次第じゃないか?はっきり言ってお前の行動、ずれてるぞ。」

「それでもだ。製作者が諦めたらそれで終わりなんだ。」

「変なヤツだな。せっかくのチャンスなのに・・・」

コイルは渋々といった感じで部屋を出ていった。


俺はさっそく作った魔道具を持って練習場に行く。

「皆おはよう今日も頑張ろう。」

やたらと上機嫌な俺が不思議に感じているみたいだが、いつも通りすぐに練習を再開する。

いつもの子が近づいてきた。この子はまだうまく魔素移動ができていない。

「一度、魔素移動を全力でやってみてくれないか?」

「分かった!」

女の子は手に持った魔石に集中し始める。

俺はそれに合わせて女の子の目の前に魔素感知ができる板を掲げる。そして体のどこから魔素が発生し流れていくか調査する。

体のどこを魔素が通っているか光で見える。

この子は心臓のあたりから魔素が発生し腕を伝って魔石の中へ入っていくみたいだ。

以前教えてもらったイメージにそっくりの流れをしている。だけど肩で弱くなっている。ここを広げてあげれば変わるかもしれない。

「肩の当たりで強く魔素を流すイメージをしてみてくれないか?」

「ここ?分かった。」

女の子は自分の肩を一目見てから、魔石にもう一度集中し始めた。

先ほどと同じように劣化した魔石に魔素が移動し始める。しかし今までとは明らかに違うかなりのペースで魔素が移動している。やはり魔石を使う上で明確なイメージが大切だ。

そしてとうとう全ての魔素が移動し、完璧に復活した魔石が現れる。

「見て!できた!」

「ああ、完璧だな。」

嬉しそうに飛び跳ね喜ぶ女の子を見ながら心の中でガッツポーズをした。

これならいける!村人たちの中で技がうまくいってない人たちの原因を特定できそうだ。


それから魔素移動を練習している村人たちを集め、全員の魔素の流れを観察した。人によって魔素の発生箇所が違ったり流れ方が異なり新しい発見があった。

試行錯誤を繰り返し、何とか全員が一度は魔素移動を成功させた。後は練習を重ね何度でもできるようにすれば実用的に使っていけるだろう。

あと数日だ。

あと数日で村人たちに魔素移動を覚えさせることができる。そうすれば村長との約束を果たせる。


数日かけて魔素移動を練習していた村人たちは全員が魔素移動を習得することができた。

それを村長の目の前で見せると、すぐに村長の家に来るように言われた。

「驚いた。本当に全員が君の教える技を習得するとは、素直に技を教えてくれた事に感謝する。これで村の魔石事情はかなり改善されるだろう。」

「それでは村人たちの生活にも余裕が出るという事ですね。」

「ああ、だが、リルカを魔石確保の部隊に加える事はできない。」

「!? どうして、あなたがいったとおり村の状況は変わったのですよ。」

「だからこそだ。村の力が大きく上がった。であればあの子にも新しい役目が与えられるのだ。」

これだから頭の固いやつは・・・。やはり凝り固まった人間の考え方を変えるのは難しいか?

「だから・・・あの子を君のたびに同行させては貰えないだろうか?」

「え!?」

村長はしっかりと、こちらを捉えながら旅の同行を願い出た。

「何故?」

「先ほども言った通り村に新しい風が流れた。今後村は大きく変わっていくだろう。ならば村が存続していくには新しい知見や価値観に慣らしていく事が大切だ。そして何より他の街や村との協力関係も大きく変わるだろう。その時に生き抜けるようになってほしくてね。」


果たして村長としての意見なのか、それとも親としての願いなのか。俺には計り知れない。

「つまりは外を見て勉強してこいということですね。しかしいいのですか?俺のような部外者に同行させて、それに俺についてくる方が危険が大きいかもしれませんよ。村の魔石収集の方が安全では?」

「村の外に出れば行先問わず危険が付きまとうものだよ。そしてどんなに弱い相手で会っても不意を突かれれば簡単にやられてしまう。ならばダンジョン制覇し短期間で新技術を開発してしまうような実力のある者に同行させた方が気が休まるというものだ。」

「しかし彼女がそれを望むでしょうか?」

「どうかね。お前は一緒に旅をしたいか?」

村長は俺が入ってきた扉の後ろへと声をかけた。その扉から近くで聞いていたのか少し目を潤ませたリルカがゆっくりと入ってきた。

「ありがとう。お父さん。私がんばるよ。」

涙をぬぐい頭を下げた。


その後、俺は村長の家を後にした。後は家族で話し合いをするのだろう。俺は宿泊地までゆったりと村を見ながら帰る。

この村とも、もうお別れだな。

数日間ではあったものの大変お世話になった村だ。村人は明るく部外者の俺も暖かく迎えてくれた。

魔素移動だってわけのわからない技だったはずなのに、村のためと、一生懸命練習してくれた。

いい村だな。きっとこの村ならずっと続いていくだろう。

すぐに次の出発の日が決まり、旅のために準備を始める。

リルカが村を出ていろいろ学ぶ旅に出るという事で、村を上げて旅路を祝う宴会を開くことになった。


村人の誰もが村の中心に作られた焚き木を囲い、思い思いに過ごす。

どことなく懐かしさを覚えつつ、でも初めて見る文化に目を引かれる。俺は少しだけ酒を貰い魔素移動を教えていた村人たちと話した後、遠くから全体が見渡せるようにしっかりと目に焼き付けていた。写真なんてないこの世界に風景を留める方法は覚えるか絵を描くしかない。後で思い出して描けるようにじっくりと写すのだ。


宴会が終わり借りている宿泊地に帰ってきた。明日は朝早くから出発だ。

すぐに就寝しようと寝床を準備していると部屋をノックする音が聞こえた。コイルはまだ広場で飲んでいたなと思いだし、扉を開けた。するとコイルに肩を貸しているリルカと貸されているコイルがいた。

酔いつぶれたコイルを寝かせる。

「ねぇ、タロウ 少し話さない?」


覚えたことを絵に起こしたかったが何か言いたそうにしていたのでリルカについて部屋を出た。

部屋を出て、空が開けた庭に来た。綺麗な夜空が見える。

「なんだか久しぶりだな。こんな風に夜に話すなんて。」

「そうだね。・・・ありがとう。私にチャンスをくれて。」

「どう思うかはわからないけれどリルカが望んだからできたことなんだ。俺は大したことはしていないよ。」

「それでも嬉しかった。助けてくれてありがと。それが言いたかっただけなの。これから一緒に旅をしていく中で、心のしこりを持っていたくなかったから・・・」

「そうか、そうだな。思っていることは話し合っていかなきゃだな。」

リルカは振り返り自室へ戻っていった。


次の日の朝、村の出口には複数の人影があった。

「さあ、次の街を目指して出発よ。」

元気に歩き出したリルカとそれについていく二人の影があった。


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