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ルーナ村-6

村長の家を出るとそこにはコイルがいた。

「聞いていたのか?流石は情報屋だな。」

「情報屋じゃなくったって。聞いているだろうよ。明らかに目元を腫らした娘に、外から来た部外者が村長の家に入っていくんだ。誰だって聞き耳を立てるってもんだ。」

それもそうかと思い、辺りを見渡すと、村人たちがこちらを見てひそひそ話をしている。これは完全に浮いてしまったな。


明日から、ちゃんと魔素移動の練習をしてくれるか心配だな・・・

「それはそうとお前、どうする気だ?今すぐアイツら全員が魔素移動できるようになるなんて到底考えられないぞ。」

「魔素感知の技術を開発する。」

「はぁ?タロウ、前にも言ったが各国が真剣に研究して全くできなかったことなんだぞ。それにお前だって全くうまくいってなかったじゃないか。だいたい、そんなものを開発して何に使うってんだ。」

「魔素の流れを捉えて村人たちが、なんでうまくできないのか突き止める。」

コイルは口をあんぐりと開け、真剣に考え出したタロウを眺めているのだった。


借りている宿泊地に帰り、さっそく魔素感知を行う方法を考える。

これができれば体のどこに魔素が流れているか捉えることができる。そうすれば魔石をうまく使える人使えない人は何が違うのか、他にも魔素の動きを把握して、よりいい魔道具をつくることができるかもしれない。

魔素探知を作る価値は高い。

ここ数日の積み重ねにより少なくとも、自分の肌身に流れる魔素ははっきりと気配を感じることができた。

他人に流れる魔素も、わずかに感じる。

しかし魔石なんかの道具を近づけた程度では、何もとらえることはできなかった。

他人が動かしている魔素を感じることができるのだから魔素は外に漏れ出ているはずだ。

後はこれをどのように受け取るかだ。手当たり次第に手持ちの魔石を使って魔素を検出しようと試行錯誤する。

夜は更けていく。


次の日の朝、予想に反して今まで魔素移動を練習していた全員が練習に参加した。

昨日、村長の家での一件があったからこのような閉鎖的な村では誰も参加しないかと思っていたがそんなこともなかった。

気になったので、なんで参加してくれるのか聞いてみると

「村のために良い技を覚えられるならこんなにいいことはないからね。」

それは、とても村思いな純粋な考えだった。この思いには答えねばならないなと自然に思った。

そんな村人たちの魔素移動の習熟度は、練習を開始した当初に比べれば目を見張るほどの成長だ。が、あと一歩が足りないといった感じだ。

かなりの魔素を正常な魔石から劣化した魔石に移動できるようになったが、完ぺきではなく一部、魔素を移動しきれず劣化したままとなり、その部分が原因で魔石が割れてしまったり、出力が低くなってしまったりといった感じだ。

このままではむしろ魔石の消費が多くなってしまう。

何としても完璧に魔素移動ができるようにしなくてわ。様々な魔素の流し方を試してもらいながら自分も魔素探知をできないか検討する。

村の一部に魔石に対してひたすら魔素を流し込む変な一団ができあがった。


「むむむ・・・」

隣から、かわいらしい唸り声が聞こえてきた。先日魔石を元に戻してあげた一番幼い女の子だ。あれから何故かなつかれて、いつも近くで練習している。

この子も一生懸命練習している。俺も負けてられないな・・・


気持ちを入れ直し、片手に持った低級の火魔石を全力で発動する。

それをもう片方の手で持っている光の魔石で魔素の反応を検知しようとしているのだ。

集中する。

持っている魔石の中に力が集まり圧縮されるようなイメージを持つ。どんどん圧縮していき、やがて小さな球になる。

しかし気持ちが高ぶりすぎてしまったせいか、予想以上に火魔石に魔素が流れすぎてしまった。

「くっ」

手にジンジンとした痛みが広がる。持てないぐらいに熱くなった魔石は足元に落ちた。本来よりも異常なほどに温度が高くなってしまった火魔石はジュウジュウと音を立てている。少しヒビも入っているようだ。

幸いにもやけどはしなかった。全くこんなミスをするなんて焦っている証拠だな。

ちなみに光の魔石には全く反応がない。いつも通りのことが、遅々として進まない研究に落胆していると

「あれー?なんでー。」

隣から疑問の声が上がる。

「どうした?」

女の子の方を向くと特に何か変わった様子はない。

「なんかねぇー何もしていないのに、魔石が光った。」

何もしてないのに魔石が光るようなことがあるだろうか?魔石は魔素が無いと効果を発揮しないはずだ。

つまりこの子が持っている光の魔石が光ったということは何処からか魔素が流れ込んだという事だ。

何処から?その答えを直観する。

俺だ。俺が不意に低級の火魔石に魔素を入れすぎたのが原因だろう。

火魔石が耐えられない量の魔素は、空間を漂い、近くにあった魔石に入り込み効果を発したという仮説が立てられる。


流れ出した魔素が、この女の子に干渉して魔石を意図せず光らせたことが信じられなかった。

真相を確かめたい。その一心で女の子に話しかける。

「なぁ、ちょっと試してみたいことがあるんだ。この魔石を発動しようとしてみてくれないか?」

取り出したのは高純度の光魔石だ。強い光や探査魔術の送信用に使う魔石でそれなりに魔素を込めないとうんともすんとも言わない。

この子の技量では光を灯す事はできないだろう。様子を見ていると予想通り全く何の反応もなかった。

そこで俺も魔素を流す。うまくいけば魔石を光らせることができるかもしれない。

俺は船の上で強力な魔術を放った少年の事を思い出していた。あの時も一つの魔石に一緒に魔素を流していた気がするが、必死であんまり覚えていないし彼が天才だったからできたことだろうと思っていたが。もし女の子にも同じ事ができるとすれば一歩前進するかもしれない。


結果は適当に魔素を流すだけでは全く光らなかった。しかし魔石の中にある魔素のうち、女の子から流れてくる魔素に集中して、その流れるペースと同じペースで一定の量を流すと魔石が光った。

しかしこれはとてつもなく体力を消費し、一回やっただけで両ひざをついて呼吸を乱してしまった。

それだけの体力を消費した価値はあっただろう。興味深いことは相手の流している魔素の存在やどれくらい流れているかという所まで、魔石の中では、はっきりと認識できるのだ。


今まで魔石と言うのは一人で使う物だと思い込んでいたが、魔石を介すれば相手の魔素をかなりはっきりと認識できるらしい。技量は必要らしいが・・・

今度は逆に魔素を引いてみた。

これまた驚くべきことに相手の魔素の流れを阻害して魔石の中で魔素を一部に集めることができたのだ。とてつもなく疲れたが・・・


ここまでやって魔素についていくつか分かったことがある。

魔素と言うのは個人によって別種のものではなく誰でも同じもののようだ。また他人の流している魔素は魔石の中ではある程度コントロールすることができるみたいだ。

コントロールの支配権ははっきりとはわかっていないけどおそらく習熟度の違いによるところが大きい。

次は空間を伝わるかどうかだ。

さっきの感覚から行けば魔石が耐えられる量の魔素よりも多くの魔素を流せば空間に流れるようだ。

ならば・・・

俺は劣化した魔石にほんのちょっとだけ魔素を移動させた中途半端な魔石を作成した。

これなら大した魔素を込めることもできないだろう。

「これは光の魔石だ。これを光らせてみてくれないか?」

作った中途半端な魔石を女の子に渡した。

女の子は素直に魔石を受け取り集中し始めた。予想通り、中途半端な魔石は魔素を籠めることができず、外に漏れだす。

俺は至近距離で劣化した光の魔石をかまえ魔素移動の要領で漏れ出したはずの魔素を引いてみた。

結果から言えば空間に漂う魔素を微量ながら吸収できた。しかし、今までの比じゃないほどに疲れ、とてもじゃないがもう一度行うなんてできなかった。


どのように、どれくらいと言ったところは、全く分からない。

物理現象に変換できないほどの魔素が流れると、魔石から強くあふれ出るらしい。まるでコップに注いだ水のようだ。


次の日、魔素移動の練習をしている村人たちに、昨日女の子にやった事と同じことを試してもらう。

おかげでいくつか分かったことがある。


まず一つの魔石に二人以上の人が魔素を流すと基本的に全く発動しない。

これは魔石の中で二人の魔素が、ぶつかり合うためにおこるものだと考えた。

魔素を流している一方が魔素のコントロールに長けていると狙って効果を高めたり、全く発動させないように流れを乱したりもできることが分かった。


次に魔素は魔石を介して外に漏れ出しているという事だ。特に魔石の容量に見合わない量の魔素を魔石に流すと外に漏れだすらしい。

魔石の近くにいるとその感覚を強く受け取れるようになった。しかし近くにいないと認識できないし、漏れ出す魔素を吸収しようとすると、とてつもなく疲労するのだ。しかも全く吸収できない。

ぶっちゃけ、こんな状態で魔素の感知に利用しようなんて現実的ではない。

遠く離れて魔素を感知するなんてもってのほかだ。


夜、今まで得られた情報を精査していた。

「どうだい?研究者さんよ、魔素の感知はできそうかい?」

コイルはどうせできないだろと言わんばかりにおどけて聞いてきた。

「うまくはいってないね。いくつか分かったことがあったけど結局のところ魔素感知の現実的な方法にはつながらなかった。」

「ほう・・・この短期間で新しい事を見つけるなんて、大変優秀ですな。その話、ぜひ聞かせてくれないか?」

やけに絡んでくるなと思ったら、どうやら少し酒を飲んでいるらしい。無視してもダルがらみされそうだったので、分かった事をそのまま話してみた。

話を聞いたコイルはにやりと笑った。


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