砂漠の神殿-5
「なんだ?これは・・・全く読めないじゃないか。」
コイルは石碑の文字が書かれた部分をいろいろな角度から観察するが読み取れない。
「でも他の部分に目立った傷は無いし、なんだか意図して消しているかのようだ。」
俺もじっくりと観察する。
ところどころは色が変わって居たり彫ってあったりと何かを表していることが分かるし、それが規則的に並んでいるのだ。
これが何かの文章であった可能性は高いが、いまいちつかみどころがない。
「こいつを見てみろよ。壁に描かれている模様と同じ材料で何か書かれているぜ。」
コイルが横から覗き見る形で話しかけてくる。コイルの指摘通り、よく見てみると薄っすらと壁と同じ材料に見える。
確かに同じもののようだ。これなら魔素を流し込めば模様を光らせて文字を読むことができるかもしれない。
さっそく石板の適当な位置に手をおいて魔素を色々なパターンで流してみる。前は回復の魔石を使うように魔素を流すと模様を光らせることができた。
色々試したが、模様は光ることが無かった。
「どういうことだ?別の何かが必要なのか・・・」
分からずに悩んでいるとコイルに話しかけられる。
「おい、タロウ。こっちに来てみろよ。何か意味深なくぼみがあるぜ。」
石板の裏手に回ってみると、確かにくぼみの中に掴みやすそうな球体があった。
罠の可能性がないか調査してみたが、特に何かを見つけることはできなかった。今度はこれに魔素を流してみる。
自分の体の中心から腕を伝って球体に魔素が流れ出ていくのを感じる。石板を見ていたリルカとグラムの顔が、光りだした模様に照らされて明るくなった。どうやらうまくいったみたいだ。
果たして何が書かれていることやら、俺達が読むことのできる文字であると良いのだが・・・!
「なんだぁ、光らすことはできたがいまいちなんて書かれているかわかんねぇな」
コイルはぼやく。
そこに書かれていたのは驚くべき文章であった。いや文章自体はこの部屋の隠し扉を開く方法が書かれているだけだったが、その文字は、ひらがなで書かれていたのだ!
これで確信した。400年前にいた勇者がここに来ていたんだ。そしてこの仕掛けを作ったんだ。
何故、このような物を作ったのか。
周辺にいる人を守るため?はたまたこの奥に宝や財産を隠したとか?わからない。
この世界の文字は元いた世界のひらがなや漢字に似た構成をしているけど、完全なひらがなではない。
こんな風に、ひらがなで書いてしまったら、この世界の人々は読むことができないだろう。
という事は、彼はこの先にこの世界の人々から隠したいものがあったのかもしれない。もしくはひらがなで残すことによって元居た世界の人に伝えたかったとか・・・
ひらがなの文字には驚いたが勇者につながる情報が残されている。そう思うと期待に胸は膨らんだ。さっそく指摘通りに壁に魔素を流してみよう。
「おい、タロウ。この文字が読めるのか?」
「ああ、昔俺がいた国にあった文字だ。これに描いてある通りに魔素を流すと壁が開くみたいだ。」
「それなら、さっそくやりましょう。」
リルカ達はそう言って各方面の壁に散っていった。
石碑に描かれた順に壁に埋め込まれた魔石に魔素を流していく。
魔素はゆっくりと壁に浸透していき、壁に彫られた模様が鮮やかな青色を放ちながら浮き上がっていく。
やがて天井や左右の壁は繋がって模様が部屋一面に現れた。
それは正確に何を表しているかわからなかったが、まるで当時の生活を表しているような、信仰の対象を表しているような、儚かなさもあり力強さもあり美しい壁画だった。
次第に石碑の奥にあった壁が振動を始め、ゆっくりと動き出し道が開かれた。
ようやく昔いたであろう勇者の痕跡を調べることができる。
そう思って胸を躍らせたがそれはすぐに驚愕と警戒に変わる。
あの文章は隠されていたのだ。つまりこの扉は封印されていたのだ、封印しなければならない物があったのだ。
扉が開き誰も動くことはできなかった。
「!」
目の前に飛び込んできた物は、おとぎ話でみた竜の顔だった。
「な・・・なんだこれは!」
コイルが絞り出すように声を出す。
誰も答えることはできない。当たり前だ。誰もこんなもの見たことも聞いたこともないからだ。
目の前に見える竜の顔は高さが2mから3mあり目を瞑っていて寝ているのか、生きているのかわからない。
「竜なのか?」
しばらく皆、目を離す事ができなかったが、目の前の顔は動き出すことなく固まっていたので少しづつ緊張がほぐれてきた。
武器を取り出し警戒しながら少しづつ観察を続ける。
開いた扉の奥には、かなり大きい空間が広がっていて、部屋に光が届かずはっきりと大きさを認識できない。
どうやって、こんな構造物を作ったのか理解できない事ばかりだ。
部屋の奥に入り、観察を続けると、それは竜と言うよりトカゲといった感じだ。トカゲの体にはここまでに見てきた不思議な模様が描かれており、それが地面に描かれた模様に繋がっている。
トカゲの体は頭の大きさに合わせて図体も大きく、いたるところに魔石が貼りついているが規則的に並んで張り付いている部分と不規則に張り付いている部分が混在している。
「魔獣なのか?」
「わかりません。私もこんなもの初めて見ました。」
「俺も長い事、情報屋をやっているが初めてだ。」
明らかに魔獣の特長を持っているが生きているようには見えない。しかし明らかに異常な姿だ。
「とりあえずは大丈夫じゃないか?動き出さなそうだし・・・」
「そうだな、問題なさそうだな。」
気にはなるが手分けして開かれた部屋の中を調べ始める。といってもやたらと広いだけで今まで見てきた部屋と同じだ。
壁のいたるところに不思議な模様が書おり、後はあの生きているかわからないトカゲともう一つ・・・
「これがタロウさんが探していた400年前の勇者の痕跡ですか?本当にあるなんて・・・」
グラムが関心して部屋の中央奥に設置された錆びた小盾を見る。
それは簡素な台に設置されていて腕に固定して使いそうな本当に小さい盾だ。盾は錆ついていてとても使えそうにない。盾には壁に描かれている模様と同じ材質で不思議な模様が描かれている・・・が、ところどころ欠けていたり溶けだして台座に溜まっていた。
「これって液体魔石じゃないか?」
溶けだしていた模様の材料を見てコイルが言う。誰もがハッとして顔を見合わせる。
「確かに液体魔石なら魔素を移動できるかもしれません。こんな使い方があったんですね。でも400年前の人々も液体魔石を知っていたならどうして今にこの使い方が伝わっていないのでしょう?」
グラムは疑問を口にした。




