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宗慣

作者: すいみんぶそく

 -崇拝せよ-

 -賛美せよ-

 今日もこの言葉が聞こえる。

 体の外からではない、体の中からだ。前は私の真後ろから聞こえてきたのだが、今は脳みその奥の奥から体中に響き渡る。どれほど前だったか、それすらも思い出せない。

 -信仰せよ-

 これを言っているのは自分の中にいる自分ではない誰かなのであろう。誰かは知っている気がする。私の友の声のような気もする、私の別れた妻の声のような気もする、何なら私の声のような気もした。

 -礼賛せよ-

 声はいつでもやってくる。気象直後、食事中、仕事の最中にも声はやってきた。

 -敬神せよ-

 私はこの声に屈するわけにはいかなかった。私は心の寄る辺など求めてはいない。正しい死など求めていない。神に祈ることに私にとってのメリットなど何一つないのだ。

 -心酔せよ-

 私の心身は限界に近づいていた。というよりかはすでに限界だったことに今気づいたというのが正しかったのかもしれない。

 いつ来るかわからない素性も知らぬ誰かの声に対する恐怖。

 それにより突拍子もなく自分が壊れてしまうのではないかという恐怖。

 そのまま声に屈服し神に頭を垂れてしまうのではないかという恐怖。

 それを常に感じ続けることに対する恐怖。

 そもそも恐怖とはなにかすらわからなくなる恐怖。

 恐怖が何かわからなくなった自分に対する得も言われぬ恐怖。

 いつの間にか休日は家の隅に蹲り泣くだけになっている心の弱い自分に対する恐怖。

 何もかもわからなくなっていた。

 -狂信せよ-

 そんなことはまっぴらごめんだった。今日こそはこの声を自分の中から取り除いてやろうと思った。鼓膜を片方破っても効果はなかった。

 私は縄を天井に括り付けた。いつの間にか目の前にあった椅子に上り、縄を首にかけた。

 椅子を蹴とばす。私の体は宙ぶらりんになった。

 -讃称せよ-

 苦しい。

 痛い。

 辛い。

 怖い。

 怖い。

 怖い

 怖い

 怖い

 怖い

 意識が消えていく

 ああ

 神よ

 今から

 私は

 あなたのもとへ向かいます

 


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