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七話目 足りないのはウキウキ感

 結局、私の新しくゲットしたスマホに、副部長からの電話がかかってくることはなく、私は部活の日を迎えた。

 ……電話しないならしないって宣言してほしかったくらいだ。何で副部長から電話がかかって来るかも! って戦々恐々としながら過ごす羽目になるんだ……。


 副部長にからかわれるのは不満だけど、文芸部の存続という大義名分のため、私は今日も文芸部の部室に足を運ぶ。

 今日のキュン度数はまあまあ(予定)、からかわれ度数はゼロの案件だ。何で先週これにしなかったのかと、自分の行動を悔やんだ。

 特にテーマの変更についての指示は受けてないけど、手を繋ぐシチュエーションなんてもう二度と書かない!


 部室のドアを開けようとしてまた部室の中から話し声が聞こえるのに気付く。

 でも今日は男子と副部長の声で、たぶん危機的状況でもない。

 誰だろう? と思いながらドアを開ければ、二人の視線が私に向いた。


「こんにちは……部長」


 副部長といるもう一人の男子は、記憶の彼方にある文芸部の部活紹介をした幽霊部長の顔のように思える。部室で会ったのは、入部した時以来だ。


「北原さん、流石だね! そうだ、部長の村井だ! さと先輩と呼んでくれていいよ」


 テンションの高さにびくりとすると、副部長が部長の頭をはたいた。


「怯えさなすな。貴重な部員が減ったらどうするんだ」

「へー! 祐太郎の反応が新鮮!」


 部長ははたかれたのも気にもせず、ニヤニヤと副部長を見ている。


「うるさい」


 副部長がプイと顔を背ける。

 なるほど、私が副部長にからかわれているように、副部長をからかえる人間がいるとは!


「部長! 弟子入りさせてください」

「は?」


 私の言葉に反応したのは部長ではなく副部長だった。

 当の部長はさっきからニヤニヤしたまま私と副部長を見ている。


「私が頼んだのは部長です」

「だから何で幽霊部長に弟子入りするんだよ」

「えー。どうしようかな」


 そう言いながら部長は副部長をニヤニヤと見ている。


「どうして私が部長に弟子入りするのに、副部長の許可がいるんですか」

「えー。だってね?」


 部長はニヤニヤしたまま副部長を見たままだ。今度は副部長は何も言わず、部長の視線を反らすように顔を背けた。

 ……意味がわかりません。


「副部長をからかう技術を修得するために部長に弟子入りするのに、副部長が許可するわけないじゃないですか」


 ぷはっと盛大に吹き出したのは部長で、副部長は私をギロリと睨んだ。


「何ですか。いつもからかわれてばかりですから、部長に副部長をからかう方法を教えてもらって副部長に対抗するんですよ」

「……必要ないし」


 私が睨み返すと、副部長が目を伏せた。


「俺も必要ないと思うなー」


 部長がウンウン、と頷いている。


「部長はいつも私がからかわれて困っているのを、可哀想だと思わないんですか」


 あー、と部長が私を見た後、副部長に視線を移す。

 副部長は頬杖をついて窓の外を見ている。


「いや、今可哀想なのは祐太郎の方かも」

「……副部長のどこがかわいそうだって言うんですか」

「北原さんって鈍かったりする?」


 部長が困ったように私を見る。


「鈍いかどうかが今関係しますか?」

「あー、そうだね。困るのは祐太郎だし、まあいいか」

「弟子にしてくれるってことですね」

「そういうことじゃないんだよね……」

「そう言うことじゃないだろ」


 部長も副部長も二人揃って私の発言を否定した。


「じゃ、どういうことですか」

「北原、聡志さとしはメインの部活の研究で忙しいんだ。足止めするな、帰してやれよ」


 副部長がため息をついて私を見る。


「文芸部の部長じゃないですか」

「幽霊部長な」

「副部長、それを許していいんですか」

「ま、俺の用事も済んだし、部活に行くわ」


 私の抗議は全く取り合う様子もなく、部長が立ち上がる。


「……聡志、用事って……」


 副部長が何か言いたげに部長を見ている。


「いやぁ、あいつが祐太郎に彼女ができたって本当かって俺に聞いて来たからさ、ホントだって答えといたんだけど、真実を確かめに」

「……副部長でも彼女ってできるんですね」


 私は部長の予想外の言葉に、ボソリと呟く。モヤっとしたのは、きっと先週私を彼女だと言い張ってカモフラージュしときながらその実別に彼女がいたという事実にだろう。自分の彼女は安全な場所に隠しておいて、いたいけな後輩を生贄に差し出すとは!


「……いないよ」


 同じようにボソリと呟く副部長に、部長がクククと笑い出す。


「北原さん、安心して! 祐太郎には彼女いないから」

「……はぁ」


 何に一体安心すればいいのかはよく分からなかったけど、私は曖昧に相槌を打った。


「じゃ、俺は部活に戻るわ」


 そう言って手を挙げて部室を出て行く部長を見送り、私は副部長を見た。


「部長なのに他の部活に行くって何ですか」

「俺が表に出たくないから代わりに出てもらっただけだから。名義部長」

「……そうですか」

「で、今日のは?」


 副部長が私に手のひらを差し出す。私はカバンから今日の作品を取り出す。キュン度はまあまあ(自画自賛)、実現度はゼロの作品だ。なぜなら、実現しようにも既に終わっているからだ。



 

 読み終わった副部長は、私をじっと見て、首を傾げた。


「何ですかその反応」

「いや、北原には無理かな、と思って」

「……何がですか」

「この小説に足りないもの。北原にも足りなさそう」


 その断定した物言いに、私はムッとする。


「足りてるかもしれないじゃないですか! 言ってください! 何が足りてないって言うんですか」

「ウキウキ感」

「………ウキウキ感、ですか。ありますよ、ウキウキする感じは……たぶん」

「じゃあ、連絡先を交換した時、何でこの主人公はウキウキしてないんだ」

「ウキウキ以外にも感情の流れはありますよ」


 それには同意しかねる。連絡先を交換したからって、ウキウキするばかりじゃない……はずだ。


「あるかもしれないけど、足りてないのはウキウキ感だよ」


 断定する副部長は、のっそりとスマホをテーブルの上に置いた。


「何ですか」


 いやいや、スマホの必要はここにないでしょう。


「ほら、連絡先を交換するぞ」

「はぁ」


 私の困惑の声に、副部長は肩をすくめる。


「連絡先、交換するぞ」

「いやいやいやいや。必要ないでしょ」


 だってもうすでに私の連絡先は副部長は知っているはずだ。


「スマホ、買ってもらえただろ」

「……買ってもらえましたけど……何で出さなきゃいけないんですか」


 必要性も感じなければ、実地するって言うならその意味もないのに。


「男子と連絡先を交換してどんな気持ちになるか、実地やるためだろ。北原のことだからクラスメイトでも男子とは連絡先交換してなさそうだし」

「……既に知ってるのに交換する意味ってありますか」


 副部長が言った通りの事実に心の中でムッとしつつ、質問する私に、副部長が頬杖をつく。


「俺は知らないけど? 何? 北原のには俺の連絡先入ってるわけ?」

「……違います」


 おーっと。まさかの私のにだけ副部長の連絡先が入ってたってオチ。これはもうあれだ。副部長の連絡先はキレイに消去しておこう。知らぬ存ぜぬ。


「ほら、スマホ出せ」

「嫌です。そもそも、今もし副部長と連絡先を交換したとしても、私が感じるのは絶対ウキウキじゃありません」


 私の言葉に、副部長がニヤリと口元を緩める。


「じゃ、やってみよ」

「嫌ですよ」

「……仕方ない。副部長命令だ。文芸部の連絡網が必要だ、ほら教えろ」


 何て副部長命令だ!


「嫌です! 私は部長命令しか聞くつもりありません」


 ついさっき部長が来てたから出てきた言葉だけど、部長が来てなかったらきっとこんなこと思いつきもしなかっただろう。


「ほー。部長命令なら聞くと」


 副部長はスマホをポチポチといじりだす。……嫌な予感しかしないんだけど……。

 副部長の手元にじっと視線を向けていた私に、しばらくして副部長がニヤリと顔を向けてくる。


「部長命令なら、聞くんだろ」


 副部長はスマホの画面を私に見せる。

 それは、ようやく見慣れて来たLINEの画面で、副部長の“文芸部の連絡網を作ろうと思う”というメッセージに、たぶん部長だと思われる“さとし”という人物から“ゆうたろうにまかせる”という一言が返ってきていた。

 ……部長命令完成した。


「納得いきません」

「じゃあ、顧問命令ならいいか」


 そこまで名前を出して、この副部長が勝機がないわけがない。

 ……諦めるしかないらしい。


「……分かりました」


 ふ、と口元を緩める副部長が私の目の前に差し出したスマホをひっこめようとした時、ピコリ、と“さとし”からメッセージが届く。

 さっとそれに目を通した私は、副部長がひっこめようとしたスマホをつかむ。


「何だ北原」

「あの、私の髪を耳にかけた時がありましたよね」

「……あったかな」


 副部長の目は前髪に隠れていて、その目の動きは分からないし、その他の表情には変化がない。


「あの時に私に見せた紙って、髪についてなかったんですか」


 バッと副部長が自分のスマホを手元に戻す。

 その画面を見て、副部長は「聡志め」とボソリと呟くと肩をすくめる。


「だって北原の反応面白かったから」


 ニヤリと笑う口元は、本当に楽しそうに見える。


「悪質です! しかもそれを部長にまで話すって」


 今日も負けたがあの時も大負けだったのだと知って、悔しさが半端ない!


「いや、楽しそうだな、って聞かれたから答えただけだし」


 クスクス笑う副部長は反省している様子は一ミリもない。


「副部長、今副部長と連絡先を交換したらどう思うか、今ならよくわかりますよ」

「どんな感情?」


 私はドン! とテーブルを叩く。


「ムカムカするです」


 どこにもワクワクなんて存在しない!


「俺はワクワクするけどな」

「それは、からかう手段が増えるからでしょ」


 私の言葉に副部長は楽しそうに笑い出した。

 ……連戦連敗。なんてこった。負けが込んでる!


 部長が送ってきたメッセージは“北原さんからかうのもほどほどにしとけよ。紙がついてるって嘘ついてるうちはまだかわいいもんだけど。”だった。

 どこがほどほど! 毎回絶賛からかわれてるんだけど!

 次こそは!

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