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それから、いくつかのテーブルを持ってこさせ、飲み物とお菓子を置いた。
クッキーのようだ。……ああ、あれ、食べかすが落ちたら、高価なベルシーアの絨毯の長い毛足の間に入り込んじゃうよなぁ。
「まだ2時間もあります。ご自由にどうぞ」
ハマルク様の言葉に、ついうっかり
「え?食べてもいいんですか?クッキーですよ?」
と、答えてしまった。
「ん?クッキーではご不満でしたか?」
あ、しまった。どうやらクッキーに不満があると思われてしまったようだ。
「あの、違います。この絨毯、ペルシーア産のものですよね?ずいぶん高価な品だと伺っています。クッキーのようなお菓子だと、気を付けて食べても知らず知らずのうちに崩れたかけらを落としてしまうことがあると……毛足の長いじゅたんの隙間に入り込んでしまえば手入れも大変になるのではないかと……その……」
思っていたことを口にして、ポカーンとしている宰相の顔に気が付き慌てて口を閉じる。
掃除が大変だとか高いものを汚すと大変だとか、……そもそも値段の話とか……これ、しちゃダメなやつだったんじゃ。
男爵家はけっこうかつかつだから、そうそう新しいものに買い替えられるわけではないので、汚さないように、汚れないように、汚れが目立たないようにと絨毯はつかっているから……つい。
「くっくっく」
あ、宰相が笑い始めた。
「大丈夫ですよ。実はこれ、大きな1枚の絨毯に見えますが、タイルのように小さい絨毯を敷き詰めてあるだけなんですよ」
ほらといって、宰相が自ら1つはずして見せてくれた。ちょうど、うちにある足が置けるくらいの大きさのサイズだ。あれ?うちにあるの、パーツの一つなのかな?
「だから、こうしてはずして後ろからたたいてやれば、ごみも取れます。汚れたらはずして洗うだけです」
「す、すごい……これならば、万が一一部を焦がしてしまっても、そこだけ取り換えることができるということでしょうか?」
「ああ、まぁそうなるね。だけれど、すごいところはそこだけじゃないんだよ」
と、ハマルク様が声を潜めた。
「この大きさの絨毯を買うと金貨1000枚はするんだけれど」
き、金貨1000枚?想像もつかない値段だ……。絨毯ですよ、たかが絨毯……。
「小さいサイズは1枚金貨1枚。この部屋には234枚敷き詰めてあるから」
「ずいぶん節約になりますね」
金貨234枚もすごい値段なんだけれど、金貨1000枚に比べたら、4分の1だ。
「どう思う?」
どう?これ、素直に答えた方がいいのかな?