ちゃら
「昼間、動いているときはまだいい。夜、気温が下がりじっとしていれば体温を奪われるばかりだ。必要な食糧を運びながら軍を進めるのも大変なのに、その上、十分な薪まで運ぶことなど不可能に近い」
将軍の言葉に想像を巡らせる。
何千、何万もの兵の食料。それだけでも確かにどれだけ必要なのか想像を絶する。敵地に攻め込むまで何日かけて進むのか。前線で何日兵を留まらせるのか。何日分の食料が必要となるのか。……ああ、いざというときのためにはやり男爵領にも食料は十分備蓄するべきよね。
途中の村や町で軍が食料を奪うという話も聞いたことがあるから。見つからないようにどこかに隠しておく……。
山の中に、いざというときに領民が避難する場所も見つけておいた方がいいかもしれない。
ああ、そうだ。ちょうど煙の出ない黒い竹がある。
煮炊きをして居場所が知られることもないだろう。
「あ、もしかして、煙が出ないというのは、敵に居場所を知られる危険がないということ?」
将軍がにやりと笑った。
「冬の問題は、暖の確保もあるが、その暖を取るために火を燃やせば、敵に位置を知らせるような物だからな。闇に紛れて夜襲される危険が増える。その点、これを使えば煙は上がらないだけじゃない。遮光布で覆ったテントの中でも使えるならば、暖も取れる上に、光で位置を敵に知られることがない。冬場に暖も取らずに軍行しているとは敵も思わず油断させることもできるだろう」
将軍の言葉に、背筋がぞくりとした。
本来は凍死者を出さないために戦争しない冬に、成型竹薪があれば確かに軍を動かすことが可能になるかもしれない……。
……終わるはずの戦争が終わらなくなるということ?
「おっと、そんな顔するな。こちらから仕掛けるような真似はしねぇよ。今の陛下も、殿下も、戦争して領地を広げようなんて思ってないだろ?」
将軍が殿下背中をばんっと叩く。
うひゃ。
「もちろん。だけれど、隣国も同じ考えとは限らないからね。備えておく必要はあると思うんだ。冬に動ければそれだけ有利にことは運ぶ」
そりゃ、そうだ。
って、え?今の言葉は殿下よね?
あれ?チャラ男が備え?
「敵に渡れば……冬は攻めてこないという常識が覆り、緊張が長引くことになる」
だから、チャラ男っぽくない発言だけれど……。
宰相が笑った。
「と、言うわけですから、成型竹薪が敵の手に渡らないよう売るのは禁止です。管理は国預かりとなります。ああ、もちろん国が買い取り備蓄していきますので、領地にはお金をお支払いいたしますが……。男爵家が裏切らないとも限りません」
笑顔の向こうにギラリと目が光る。
こ、怖い。




