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「お嬢様、とにかく笑っておけばいいんです。笑っていれば。男爵家などいつおとりつぶしになるか分からない弱い立場ですが、こちらに非さえなければ、さすがに噂だけで処分されるようなことはありません。笑っていればいいんです」
「わかったわ、マール。なるべく皆から距離を取って黙って笑ってみてることにする」
マールの殺気が増した。
「お嬢様、馬鹿にしたような顔で笑っていてはだめですからね!」
あ、はい。
1の鐘とともに第一回選考会が始まるので、鐘がなる2時間前に王城へと足を運ぶ。
これね、身分の低い人間から会場入りするっていう暗黙の了解があるからなんだけど。今日は2時間何して過ごそうかな。
通された部屋には、10脚の椅子と、1つのソファが置かれていた。作りはどこを見ても豪奢。キラキラと光を反射するシャンデリアが天井から垂れ下がり、床には毛足の長い絨毯が敷き詰められている。繊細な模様が織り込まれている。ああ、これってもしかしてうちの領の山を越えた向こうのペルシーアの絨毯かしら?うちにもほんの小さなものがある。一人が足を乗せられる程度のサイズなのに、金貨1枚もするとお父様が言っていた。
部屋の大きさはその100倍も200倍もある。いったい、この絨毯一つでいくらするのか……。
くらりと眩暈がした。
踏むのももったいない……と、入り口で立ち止まっていると、後ろから声がかかった。
「どうなさいました?」
落ち着いた男性の声に振り返る。
「さ、さ、宰相閣下」
50代半ばのスマートな男性だ。伯爵家の次男として城勤めをし、実績を上げて宰相にまで上り詰めたという人物だ。
陛下の右腕として宰相を勤め始めて15年になるという。ハマルク宰相。
「あなたはヒューレド男爵家のミリアージュ様ですね。お好きな席にお座りください」
お好きな席と、言われても……。
「ああ、もしかして男爵家ということで、上位貴族がそろってから最後に着席するつもりでしたか?」
それもある。椅子の並びから、当然上座と下座はあるのだけれど、下座が一番殿下の顔がよく見える場所だったりすると「その席は私のものよ」と言われかねない。
あいまいに笑って答えに窮していると、ハマルク様が額に手を当てた。
「これは、配慮が足りませんでしたね。早く到着したご令嬢に立ったままお待ちいただくのは申し訳ないと椅子を用意させましたが……確かに、席でもめる可能性はありますね。椅子はすべて壁に寄せて配置しなおしましょう。そうすれば、着席しやすいでしょう」
ハマルク様が背後に控えている騎士に指示を出し、部屋に並べてあった椅子をすべて壁に寄せた。正面の真ん中のソファだけはそのままだ。
全然関係のない話になりますが。
サンマルクカフェで名前を考えていて「ゴマルク公爵」を書いて以来、
公爵家の名前は数字+マルクシリーズとなりました。
ハマルク様は、8マルクです。3マルク、5マルク、現在別作品では6マルク家が主役です。
てなわけで、どうでもいい話でした。はい。名前考えるの苦手なんで。
あ、もう一つ。別作品にも「ディラ」と「ネウス」出てきます。こっちが後ですね、むしろ。
では!