たけせいひん
「殿下があれで喜ぶとでも」
「まぁ田舎貴族の考えそうなことですわ。どうせ殿下に差し上げる物が何もなくて苦肉の策でしょう」
「汚らわしい。よくもあんなものを持ってこられたわね」
ご令嬢が口々に批判している。先ほどは驚いて顔色を悪くしていたというのに、案外精神図太い人が多いんだと、ちょっとばかり関心する。
え?私?全然平気。
貧乏領地だもの。当然山でとれる獣も大切な食糧。あんなに多きな頭の獰猛そうな熊は取れませんが。
熊肉ってどんな味なのかしら?本にはクマの手はプルンプルンしていておいしいと書いてあったけれど。
「ふふふ、ははは。最高だよ子猫ちゃん。気に入った」
殿下が今まで、ほめるだけだったのに「気に入った」と発言し、手を伸ばして熊の頭に触れた。
「今までの品は、どれも見たことがあるものばかりだったからね。熊の頭は初めて見るよ。ありがとう子猫ちゃん。ふふ、すごい牙だね」
ファエカ様が、唖然としている。
気に入られるとは思っていなかったという表情だ。……気に入られる気、ゼロですね。
「それから、もう一つお持ちいたしました。我が領でのみ生息している特別な鶏の肉です。筋肉質で弾力の強く深いうま味のある肉でございます」
「肉……」
さすがに、生の肉を出されて、殿下は閉口した。
あれ?これ、チャンスなんじゃないかしら?
「ファエカ様、焼いて食べるとおいしいでしょうか?」
閉口した殿下を前にファエカ様に話しかける。本当は不作法なんだけれどね。
「ええ」
「では、殿下、私からの贈り物として、その肉をおいしく焼く新しい薪をプレゼントいたしますわ」
テーブルの上に置いた竹のバスケットにかぶせていた布を取り、中からツボを取り出す。
「何あれ。真っ黒な石?」
「いやだわ、アレが贈り物だなんて」
「薪と言っていたわよ、薪って、火をたくあれでしょう?」
「くくくっ。どうやらファエカ様のように奇をてらったけれど失敗したようね」
殿下がきょとんとしてツボの中に入った黒い竹を見ている。
「これは、成型竹薪と申します。実際に御覧になったほうがよくわかるかと思いますので、火種を貸していただけませんでしょうか」
「暖炉にくべるのではなく、火種を?」
頷くと、すぐに殿下が執事に視線を送る。執事が侍女に暖炉から火種となる燃えている小さな薪のかけらを持ってきた。
それをツボの中、成型竹薪となずけた黒い竹の中に落とす。
成型竹薪……。これは、黒い竹を輪切りにし、その中に粉にした黒い竹と糊を練ったものを詰め込んだものだ。中央には空気が通る穴があけてある。