にこり
「そうなのかい?」
皇太子の質問に、ご令嬢が顔を真っ赤にした。
「ふふ、可愛い子猫ちゃん。私を喜ばせようと、領地でいろいろ探してくれたのかな?嬉しいよ。だけれど、君の領地をうるおしているのはジャガイモなのだろう?美しく子猫ちゃんを育てたのはそのジャガイモだと思えば、私はジャガイモを貰っても嬉しかったよ」
パチンと音がするくらい綺麗なウインクを皇太子は決めた。
「ありがとうございます殿下、あの、今度はジャガイモで作ったおいしいおやつをお持ちいたします」
「ふふ、可愛いことを言ってくれるね。期待してるよ」
……。今度だぁ?
やめてくれ!来るたびに何かお土産持参が暗黙のルールとかになったらどうしてくれるっ!
「君のプレゼントは何かな?」
次のご令嬢は剣を。良質な鉱石から腕の良い鍛冶が打ち出す武器が売りの領地だそうだ。
続いて、甘いお菓子。はちみつがよく取れるそうな。
……どれも貴族が好みそうな品が続く。
……そういうものがよく取れる領地なのかと思えば、シルクのご令嬢と同じで、皇太子殿下への贈り物にふさわしいであろう物を領地から探し出したようだ。
贈り物を渡す順番は、暗黙の了解で爵位の高い物からだった。爵位が高い者の領地はそれなりに良いものがある。
……そりゃ、領地を与えるときに、低い身分の者にいい土地を与えるわけはないのだから当然だ。
残り2人になった。
私とファエカ様だ。
ファエカ様は北の辺境の冬の長い土地の子爵家のご令嬢だ。読んだ本を思い出す。
特産物となっている物は何かあっただろうか。確か、強いお酒と、大きな魚を干したやつだっけ?
テーブルの上に置いた箱の前に、殿下が立つ。それを見計らって、ファエカ様が箱の留め金をはずした。すると、花が開くように箱の四方のいたが倒れ、中身があらわになる。
「ひっ」
「ああ」
令嬢たちが小さく悲鳴を上げて顔を背けたり、よろめいたりした。
「こ、これは……」
箱の中には、クマの頭が入っていた。
さすがの皇太子も顔を引きつらせるかと思ったら。
「我が領では熊やイノシシなどのジビエ料理が盛んに食べられます。残念ながら、今回は急なことでもあり、遠く離れた領地から新鮮な肉を取り寄せることはできませんでしたため、頭のはく製をお持ちいたしました。勇敢な狩人の証として、部屋に飾る品でもございます。殿下の勇敢さをたたえる意味を込めましての贈り物でございますわ」
ファエカさんはにっこりと笑って説明を終えた。




