6
「むしろ、明日が変装だと思ってますよね?」
ぎくっ。
「そうよ。だって、こっちのが生きやすいんだもん。社交場に出るときの私が変装した姿。あっちが偽物。ああ、もう。思い出したくないわ。行きたくない」
マールがにやりと笑った。
「ふふふ、屋敷に戻ったら、明日に備えて準備を始めましょうね。明日も完璧な姿に変装して差し上げますわ。ミリアージュお嬢様」
そう、明日は、皇太子妃候補の第一回選考会が開かれる。
毎月1回10名が集まり、チャラ皇太子におべんちゃらしなきゃいけないそうな。もう、さっさと不合格の烙印を押してもらえませんかねぇ。
あー、気が重い。
「今日もお美しい。国一番の美しさですわ、お嬢様!」
マールの嬉しそうな顔が鏡の中に映る。
「私が国一番なんじゃなくて、マールの腕が国一番なんじゃないかしら?」
普段は汚いだのみっともないだの不細工だのいろいろ言われる私ですよ?……眉毛を太くしたり目立つそばかす書いたりと多少はマイナス寄りにいじくっていますが。
「何をおっしゃいますか!ミリアージュ様は本来化粧など施さなくてもそれは美しいお顔をしていらっしゃいますわ!光り輝くばかりの美しさ!わたくしはほんの少しお嬢様のお手伝いをして差し上げているにすぎません」
マールがきりりと眉を吊り上げた。
「不機嫌に口を結んでも笑っているように見えるよう口角を上げたように見える紅を指すとか」
うぐっ。だって、退屈になってくると、こう、笑っている表情を取るのもつらくなるじゃない?別に不機嫌になっているわけではなく、ぼーっとするだけで……。
「どこまでも真っ白な肌をパーティーに興奮して頬が蒸気しているように桃色にするとか」
いや、だって、一刻も早く帰りたいと思うのに、興奮なんてしないって。むしろ、ぞっとして顔がもっと白くなることの方が多い……ああ、それをカバーすることも見越しての頬紅なのか……。
「もちろん、にらみつけているように見られるといけませんから、目元も優しく見えるように目じりを下げ、弓なり型に近づけるようにしております。お嬢様、ほら」
と、マールが鏡の中の私の顔を指さす。
ええ、確かに。引きつっているはずの私の顔ですが、目元はほほ笑んでいるように見えなくもな……。
「ねぇ、マール、ちょっと腕が良すぎやしない?これ、怒っていても相手に伝わらないやつじゃない?」
ぎくっ。
鏡の中のマールの顔は笑っているのに笑っていない……う、うん、笑っているように見えても殺気は伝わる、よくわかった。