竹色
そんな大切なドレスを私が先に着てしまったなんてばれたら、またいろいろ言われる。それに、汚すわけにはいかない。誰かにまたうっかり飲み物をこぼされても困るから。部屋に戻って乾いた喉はそのままに、じっとドレスが戻ってくるのを待った。
まだ少し湿ってはいるものの、しっかりシミはきれいになったドレスに着替えて、会場に戻る。
すでに皇太子妃候補10名はそろって、時間になるのを待つばかりとなっていた。
「わー、子猫ちゃんたち、なんて綺麗なんだ」
会場に入るなりチャラ皇太子は両手を広げてチャラいことを言い始めた。
「黄色い花が咲いたようだよ。君から香る花の香りに包まれたいよ」
「赤い情熱的な色、私にその情熱をささげてくれるかい」
「闇に光る月の女神のようだね、美しさがひと際輝いて見えるよ」
と、一人ずつを褒めたたえ始めた。
チャラさもあそこまで極めれば立派だわ。と、何か遠い目になる。
「おや?素敵なドレスだけれど、こんなドレスはあったかな?」
殿下が、私の前で固まる。
「申し訳ございません殿下。私により似合うようにと、サイズ直しをしてくださったお針子たちが刺繍を提案してくださり、私が、許可をいたしました」
まさか、ドレスのデザインを覚えているとは思わず慌てて頭を下げる。
「そう、自分に似合うように工夫したんだね。ずっと素敵になったよ。というか、ごめんねぇ。もう少し明るい色がよかったよねぇ?」
げげっ。皇太子に謝らせちゃったよ。
っていうか、他の令嬢の目が怖い。怖いって。
まるで、男爵令嬢にハズレが回ったみたいな感じに殿下も思ったみたいなこと言わないでよっ。くっ。気が回らないアレだよ。
「いいえ、私、このドレスはとても気に入っております」
嘘つけみたいな目でみんな見てる。殿下の目も不審げだ。
「私の住む領地には竹林がございます。我が領の財産でもある竹の、すくすくと成長した色のドレスはとても誇らしいです」
「竹が財産?」
皇太子殿下が首を傾げた。
うわ。キラキラが零れ落ちるくらいキラキラだ。どんな表情を見せてもイケメンっぷりは変わらないんだね。って、違う、そうでなく。
「ヒューレド男爵領地は、耕作地の少ない小さな領地です。畑は少ない分、竹から作る竹製品が大切な領の収益源となっておりますそれで」
ふぅーんと、興味なさそうに殿下が声を上げる。
「ずいぶん領地に詳しいんだね?」
殿下の言葉に息をのむ。
どういう意味?
殿下は知らないでしょうから教えて差し上げますわと、馬鹿にしたと受け取られた?
……ああ、それとも女のくせに領地のことをあれこれ言うなんて生意気だと思われた?




