かわり
「そうよね。そんな馬鹿なことなさいませんわよね。もし、私やミリアージュ様が皇太子妃になれば、あっという間に立場が逆転いたしますもの」
二人がうっと息をのみ、そそくさと逃げるようにして部屋の隅に移動した。
「あの、ありがとうございました。でも、ファエカ様……」
もし選ばれたらという話をしたけれど、逆に選ばれなかったときにお立場が悪くなるのでは……と、心配になって口を開こうとすると、言おうとしていることが分かったのかふふっと笑って、つんっと頭の上をつつかれた。
「私はほとんど王都には出てこない辺境の子爵家令嬢なので、平気よ。それよりも、それ、幸い時間もあるから、洗って乾かせば間に合うんじゃないかしら?」
ファエカさんにドレスのシミを指さされて思い出す。
「ああ、確かに。こういうときは早くに出なくてはいけないことに感謝しなければいけませんわね。ありがとうございます」
ファエカさんにお礼を言って、部屋の隅にいる侍女の一人に声をかける。
少々お待ちくださいと言われ、待っていたらそのまま別の侍女がやってきてこの間採寸した部屋へと通された。
ドレスを洗って乾かすと言われ、その間にと、ずいぶん立派なドレスを手渡された。
まぁ、下着姿でいるわけにはいかないから袖は通すけれど……。仮に羽織るドレスですらこんなに立派って……どれだけお金を浪費してるんだろう。王族。
部屋でずっと待っていなくてもいいですよと言われたので、喉が渇いたこともあり部屋に戻ろうと廊下へ出る。
「おや、これはこれはミリアージュ様ではありませんか。誰かと思いましたよ」
廊下に出ると宰相がいた。
「懐かしいですねぇ、そのドレスは王妃様がお若いころに着ていた物ですね」
「え?王妃様が?若いころに?」
宰相の言葉にぎょっとする。
「あ、そんな大切なものをっ」
どうしよう。急だったとはいえ、だったとはいえ……」
「いえいえ、大切ではありませんよ。いつか使えることがあるかもしれないともったいないから取ってあっただけで」
「は?もったいない?」
意外な言葉が宰相から飛び出して思わず聞き返してしまった。
「おっと、失言でしたな。遠慮する必要はありませんよ。王妃様は誰か、譲る相手があれば差し上げるつもりでしたからね」
譲る相手って……。
「その、あと1時間ちょっとだけお借りいたします。汚さず返しますから、えっと、譲る相手に譲る前に袖を通してしまって申し訳ありませんっ」
すぐに踵を返して部屋に戻る。
譲る相手って、普通に考えたら娘よね。……王女様はいないから、チャラ男の嫁……義理の娘になった人に譲るつもりよね。




