ざまぁさま
「公爵令嬢ファーネ様に頼まれたのですか?」
二人は取り巻きだ。公爵令嬢ファーネ様の。
ファーネ様は自分の手を汚さず、気に入らない者へくぎを刺すと噂で聞いたことがある。だから、気をつけなさいと。
そう、たしかそう教えてくれたのは、ファーネ様とは対立する公爵家のご令嬢。
「な、何をおっしゃっているの?誰かに頼まれて、うっかり飲み物をこぼす人がいるわけありませんわ」
「ええ、そうですわよ。ドレスのすそを踏んでうっかり飲み物をこぼすところを私は見ていましたわ。それをわざとのように言うなんて、失礼よ!」
はぁー。もう、めんどくさい。めんどくさい。
私は皇太子妃の地位なんて望んでなんてない。
「失礼ですが、辞退しなさいと言いましたわよね?では、そのようにお伝えすれば辞退することができますか?」
薄紫色のご令嬢がうっと息をのむ。
「どういうこと?」
「公爵令嬢ファーネ様のご友人のご令嬢に皇太子妃候補を辞退しなさいと言われましたので辞退したいと、そう申し出れば私は辞退できるのでしょうか?……私は男爵家です。王家に皇太子妃候補選抜に出なさいと言われれば、とても辞退できる立場ではございません。命令は絶対ですから。ですが、公爵家ともなれば違うのでしょうか?」
私の言葉に、二人が青ざめる。
「あーはははっ。何それ。面白いですわね」
突然笑い声が響き渡り、声の方を見る。
「ファエカ様」
「ねぇ、私にも辞退しなさいと言ってもらえないかしら?そうすれば、公爵令嬢のご友人に辞退しろと言われたと言って、辞退できるんなら、嬉しいんだけど。早く領地に帰りたいのよね」
ファエカ様が二人の顔を見て笑いを納める。
「ああ、でも、もしかして、公爵令嬢はあなたたち二人が勝手に辞退しろと言っただけで私は知りませんと言うかしら?そうしたら、伯爵家の力じゃどうにもならないかもしれませんわね?私もミリアージュ様も辞退することはできない……あら?けれど……辞退しろと立場の弱い者に脅しをかけたご令嬢はどうなるのかしら?」
ファエカアマがとぼけた顔をして宙を見てから、二人に笑いかけた。
「それで皇太子妃候補から外れられるならラッキーですわね。だけれど、残念ながら私もミリアージュ様も使えない手ですわねぇ。私たちが爵位で脅しをかけられる人はいませんから……」
二人は青ざめる。
「わ、私たち、辞退しろなんて脅したりなどしていませんわ」
「そ、そうですっ」
ファエカ様がふぅーんと小さく頷いた。




