nesu
布に包んだ竹算盤を抱えて馬車を下りる。孤児院の子たちに使ってもらって意見を聞くつもりだ。
それからもう一つの方は孤児院の子ではなくて、意見を聞くには。
馬車から孤児院までいつもは一人で歩いていくんだけれど、今日はヤードと一緒だ。
教会が見えるところにカフェがある。
「教会には警備兵がいるから大丈夫。ここで待っていてくれる?」
「ああ、分かった。」
ヤードに手を振り、小走りで教会へと向かう。入り口には、ネウスの姿があった。
ああ、来てる。
ディラはもう教会にいる。
ドキドキと胸が波打つ。
馬鹿な私は、痛む胸と会える嬉しさで心が揺れる。
「ネウスさんっ」
「ああ、リアさん。今日はいらしたんですね。良かったです」
ネウスが私の顔を見て笑った。
おや。初対面の時とは違って、私にも笑いかけけてくれるんだ。
とはいえ……イケメンの笑顔はうさん臭くて好きじゃないんだよね。チャラ皇太子思い出すし。
「見てもらいたいものがあるんです」
ポケットに入れていた試作品のボタンを取り出す。
「なんですか?」
これは誰に聞くのがいいかと言えば、やはりネウスが一番だろうと思って。
ネウスが差し出した手のひらに、取り出したボタンをころころと5つほど手渡す。
「これは?」
「ボタンです。ボタンに文字が彫ってあるんです。これ、刺繍の代わりに使えませんか?」
そう。持ってきた試作品は文字を彫りこんだボタンだ。
文字を知らない人も刺繍ができない人も、文字の彫ってあるボタンを縫い付ければ服に名前を刺繍したのと同じような目印にならないかと思ったのだ。
どうせ靴下は、下がらないように上からつるして止めるためのボタンを使っている。パンツにはちょっと邪魔になるかもしれないけれど。ボタンのついたズボンやシャツ何かにも使えるんじゃないだろうか。
ネウスさんの目がきらっと輝いた。
「これは、素晴らしいですね、いいですよ」
「本当ですか?」
「ええ、名前の頭文字を縫い付ければ持ち主の区別がつく……同じ名前の者は、縫い付ける糸で区別するようにでもすれば……。刺繍は無理でもボタンの付けくらいはできる者は何名かいる……これは、画期的ですよっ!」
ネウスさんが珍しく興奮気味に私の手を取った。
うん、よほど持ち主が分からない服問題は深刻だったようだ。
……そりゃそうか。ネウスさんの顔を改めてみる。




