けい
「こうして計算するのよ、いい?」
子供たちに見えるようにマールがボタンを動かす。
「例えば、ここに12本の竹串があります。だから、ボタンを一つと二つ、ここが十で、こっちがに。そこに23本の竹串が加わります。十のところが2つ増えて、こっちに3増えるでしょ。これで、足し算が完成。あとは上に移動させたボタンの数を数えます。十の方が3つでこっちが5だから、35」
マールが子供たちに説明しているのを、大人たちが見ている。興味なさそうだった顔が次第に輝きだした。
「これなら、ちょっと頑張れば計算ができるようになりそうだ」
そうか。そうだ。
「マールありがとう!」
早く計算するためにあの子たちは長い竹串と短い竹串を使い分けながら計算していたのだろう。だけれど、計算なれていない人間からすれば、5の集まりである長い竹串を使うよりも、見て分かりやすい10本の竹串を使った方が分かりやすいに違いない。
「10のボタンを通した計算道具と、5つと1つに分けた計算道具と二つ作ってみましょう」
「おう、おいらも協力させてくれ!竹ぐしを指す穴をあけて作ったほうがいいだろう?」
「そうだな、安定するように薄いひらぺったい箱で作ったほうがいい。竹串を指す穴をあければいいな」
「穴に通してはみ出したところは切り落として安全にして」
「抜けないように糊で固めたほうがいいな」
「ボタンじゃなくてこれ用に真ん中に穴の開いたやつが欲しいな」
領民たちが次々とアイデアを出し始めた。
「ありがとう」
お礼を言うと領民たちがぱぁっと笑顔を見せた。
「俺たちの方こそミリアージュ様のおかげで計算ができるようになりそうなんだ。お礼を言うのはこっちさ」
「新製品ができて王都で高く売れたらこっちもありがたい」
試作品を作ると張り切っているので、あとは任せて、集まった竹製品を屋敷に運ぶ手配だけして領地巡りを再開する。
「マール……子供たちに簡単な文字と計算を教えたら役に立つと思う?」
正直なところ、一生を領地で親と同じ仕事をして生活するのであれば読み書きや計算は必要ない。文字を覚える時間があるなら、竹細工の一つでも作り方を覚えた方がいいだろう。
マールがんーと眉根を寄せて考えこむ。
そうだよね。役に立つか立たないかと言われても、やっぱり役に立つとは思えな……ん?
あれ、待って。何か思い出しそう。
「あ!そうだ!マール!役に立つと思わずに教えていた男の子たちの裁縫の腕が役になったんだわ!」
そうよ、そう!




