たけ
「お嬢様いらっしゃい」
手に作りかけの竹細工を持った高齢の女性が家から顔を出して挨拶をしてくれる。
「こんにちはミリアージュ様」
畑仕事からの帰りの男性も小さく頭を下げていく。
ああ、そうだ。私にはたくさんの大切な人がいる。
私が守るべきたくさんの人が……。
「マール、明日王都へ行くんだって?だったら売ってきて欲しいんだ」
私の後ろを歩くマールに声がかかった。そういえば、村で作った竹製品を王都に行くたびにマールは売りに行っているようだ。私が学校に行っている間の仕事だ。……マールは働き者だよね。
「しばらく私のおともで王都に行くことも減るでしょうから、明日はできるだけたくさん持って行って頂戴」
「ああ、そういえば、そうですね。では……明日売るものを持ってきてくださーーい」
マールが声をかけると、家々からちょいちょいと竹製品を抱えて家を出てくる人たち。
「ナイルグさんは水筒が30と、竹串が50束ですね、モリスさんは……」
と、マールがメモを取りながら竹製品を集め始めた。
「あら?これは?」
マールが作業を止めて首を傾げた。
「新しく作ってみたんじゃが、売れないじゃろか?服についてるコレ?」
マールが竹で編んだ小物入れに入ったものを手に取る。
ジャラジャラと糸に通された100個ほどのそれは……。
「ボタン、ですか?確かに木でなくて竹で作っても問題ないと思いますが……ただいくらで売れるかはわかりませんよ?貝で作ったボタンは木よりも高いですが、竹はどう判断されるか……」
「構わんよぉ。小物入れの蓋を止めるボタンを作るついでに作っただけじゃで。楽に作れんかと試行錯誤しとったらたくさんできたんじゃ」
試行錯誤!
ハッと、領民の言葉に気が付く。
そうだ。何とかしなくちゃって、私は何様なのだろう。確かに、何とかしようと思う必要はあるけれど、私一人で何とかできるなんて思い上がりだよね。
領民たちだって、考えて新しいものを作り出すことができる。
領地を見て回るだけじゃだめだ。みんなにも協力をお願いしなくちゃ……。
「いくつあるかぞえますね」
マールが糸に通されたボタンを、一つ、二つとずらしながら数を数え始めた。
ボタンか。サリーの働いている洋裁店に買ってもらえないだろうか。
「えーっと、それから、5、10、15、20……」
マールが一つずつではなく、5つずつ数え始めた。
「待って、マール!」
ぐっとボタンを移動させていたマールの手を握って止める。
「ミリアージュ様?」
別の人が納品した竹串の束を手に取る。




