まーる
私は、しばらく王都には行くつもりはない。皇太子妃選定が終わるまで。
……1年かけて選ぶと言っていた。途中で脱落すればもっと早く身の危険はなくなるかもしれない。
ふっ。
「明日、行くと思うわ……」
たとえ明日行ったとしても会えるとは限らない。
……いいえ、会ったとしても何かが変わるというわけではない。
ただ、うん。伝えに行くだけ。
しばらく顔は出せなくなると。そう、孤児院の子たちに、神父様に伝えに行こう。そうすれば、ディラも私のことを尋ねることはなくなるだろう。
ディラが、私に会いに来たなんてそんなこと……。
うれしくて、そして、悲しいことを耳にすることもなくなる。
「本当ですか?じゃぁ王都に戻ったら伝えてきます!」
伝える?孤児院に寄るのかな?
サリーたちは採寸を終え、最終的なデザインの打ち合わせを済ませるとすぐに帰っていった。
あれだけ立派な刺繍を施すにはぎりぎりの時間しかないはずだと分かっているので、引き留めてお茶でもというのも遠慮した。
いいえ、違う。違う。
そうじゃない。
私が辛かったんだ。
もう、笑顔を作るのが辛くて。
「ミリアージュ様どうなさったのですか?ご気分でも悪いのですか?」
マールが私が涙を落したのを見て大慌てで飛んできた。
「ううん、違う、違う、会えないんだと思ったら……」
「ああ、そうですね。サリーを見て孤児院の子たちを思い出したのですね……」
マールが勘違いしている。
違う。いいえ、皆に会えないのも寂しいけれど。また会えると思っているからそれは平気。
そうじゃない。
「ねぇ、マール、明日、孤児院に行くわ」
「え?危険ですよ」
「明日だけ。しばらくいけないと……それだけ言いたいの」
マールがちょっと考えてからしぶしぶ頷いた。
「確かに、突然長い間行かなくなれば心配かけてしまいますね……。明日は、念のため護衛を連れて行きましょう。護衛と言っても、兄さんですけど」
マールが笑う。
マールの兄のヤードは、普段は木こりをしている。腕っぷしは強く体格もいい。確かにちょっとしたチンピラくらいなら問題なく追い払ってくれるだろう。街中で武器を振りかざして堂々と襲ってくるとも思えないから十分かも。
「じゃぁ、さっそく兄さんにお願いしてくるわ」
と、マールが部屋を出ていくのをぼんやりと見る。




