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「書類仕事と計算と縫物……雑用とはいえ、出世すれば隊長補佐や副官補佐といった役職もあり」
ネウスさんの言葉に、ディラが続けた。
「将来的には、騎士の従者として取り立てられることもある」
「「え?」」
ディラの言葉に驚いて声を上げたのは、私とネウスさんだ。
騎士は兵とは全く違う。試験を受ければ入隊できるというものではなく、貴族か一定以上の税金を納めている家の者という受験資格が課せられる。貴族の場合は王立学園の騎士科で2年学べま試験はなし。兵より上の特別な地位だ。
従者と言えども、将来騎士を目指すそれなりの家の者か、騎士を目指すには能力的に足りないそれなりの家の者か、騎士隊長などの従者ともなれば、負傷して減益を退いた元騎士や、隊長にあこがれる現役の騎士など、家柄も実力も伴ったものが務めることが多い。
「でn……ディラ、流石にそれは……」
ネウスさんは護衛兵なので当然知っている話だろう。夢を見させるにしても、実現不可能な話をしているディラの話を訂正しようと口を開く。
「ネウス、欲しいだろ?」
ディラが子供たちを見てからネウスに尋ねた。
「……ええ」
欲しい?
「兵になるつもりはあるかい?なら、剣とマナーを教えるけれど」
ネウスさんが二人を見る。
「兵になったら、お金がもらえる?」
いきなりお金の話になって、ネウスさんがちょっとびっくりしている。
「サリー姉ちゃんみたいに、皆にお土産買ってこれるようになる?」
ディラが笑った。
「あはは、そうだな。そうだ。もらえるように、なるよ」
「じゃぁ、兵になる。なりたい!」
「おいらも!」
まさか、兵を目指すことになるなんて……。二人の嬉しそうな顔を見て複雑な気持ちになる。
私が教えられることが役に立ったのは嬉しい。男の子なのに裁縫をさせていたことも、まさか役に立つことがあるとは思わなかった。文字と計算が役に立つとは思っていたけれど。
……そして、私が教えられることに限界も感じた。剣術は教えられない。それから乗馬も。男性側が必要とするマナーも。
「ありがとう……ディラ」
ディラに感謝しなくちゃ。
「ん?何が?」
「あの子たちに将来の夢を与えてくれて」
ディラがそっと私の肩をたたいた。
「違う。僕じゃない。リア……君だよ」
「ディラ……でも、私……」
ああ、私はディラに何を言おうと思ったのだろう。
ただ、自分が情けないという気持ちと、ディラが私を認めてくれた嬉しさと、心の中がぐちゃぐちゃだ。
私の容姿でも学力でもなく……私のしてきたことを認めてくれた。
泣きそうだ。
その時、鐘の音が聞こえ始めた。3の鐘の音だ。
 




