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【書籍化】貧乏男爵令嬢の領地改革~皇太子妃争いはごめんこうむります~【WEB版】  作者: 有(富士とまと)


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第3話 *

失礼いたしました。内容間違えていたようで入れ替えました

 むわっと、凝縮された本の匂いが鼻をつく。

 本好きにはたまらない瞬間だ。

 教会図書館の入り口に立っている警備兵に軽く会釈をする。常連の私は顔見知りなのだ。

 あれ?いつもの人のほかに、もう一人警備兵が立っている。服装はいつものおじさんと同じ茶色の兵服なんだけれど、ずいぶん姿勢がよく整った顔をしているので、お城勤めもできそうだ。

 珍しいと思って思わず注視したら睨まれた。別に怪しい人じゃないですよ。ただの喪女です。無害な常連です。

 かっこいいからって色目使うような害のある女じゃありません。

 身を縮めて慌ててその場を離れる。

 教室2つ分ほどの広さの教会図書館は、入って右側と左側に床から天井までの大きな本棚がある。石造りの燃えにくい造りの建物だ。

 正面の壁には、明り取りのための窓が並んでいる。防犯のため一つの窓の大きさは人の頭の大きさもないけれど、数が多いため本を読には十分な明るさが確保されている。

「えーっと、あの本は確かこのあたりにあった」

 続きを読もうと植物に関する本を探す。

 あれ?ない……。本があるはずの場所には、ちょっとした空間が空いているのみ。

「え?どうして?」

 図書館には、4人掛けの机が8つと、壁際に3人掛けのベンチが4つ並べられている。

 利用者はそれほど多くなく、多くても5,6人と言ったところだ。まぁ、文字が読める人間も限られているし、その大半は上流階級で、王立図書館を利用できる。

 今いるのは、3人だ。孤児院のカイ君と、小さな商会のご隠居さん。それからもう一人は……知らない人だ。

 猫背でこげ茶のくりくりした髪を整えもせずそのままにした男の人。十代後半かな。浅黒い肌に小さなそばかすがいっぱい浮いてる。目元にもくりんくりんの髪の毛がかかっているので、瞳の色は分からないけれど……。

 構わない髪、みっともない姿勢、そして袖の長さも裾の長さもあっていないちんちくりんの服。よく見ればそこそこよさそうな布を使った服なので、サイズの合わない服を着続けなければいけないほど貧しいわけではないだろう。つまりは、服装なんてどうでもいいと思っているタイプだ。

 しかも、食い入るように本を読んでいる。

 どこにでもいそうな青年……道ですれ違っても誰も気にしない、振り向かないだろう、平凡な青年。

 だけれど、本が好きっていうだけで私にとっては親近感がわく。

 ふと、何の本を読んでいるのかと気になって別の棚へ移動するふりをして近くを通りながら手元を覗き込む。

 あっ。

 思わず声を上げそうになり息をのむ。

 それ、私が続きを読みたいと思っていた本だ。そうか、彼が読んでいたから……棚になかったのか……。

 他の本を読もうか……それとも……。

 どうしようかなと視線を上げると、見慣れぬ警備兵が私を睨んでいる。

 な、何よ。もうっ!まるで犯罪者を見るような目で見なくても。

 よし、決めた。今日は読書はあきらめよう。

 本棚の一番下の段に置かれている絵本を手に取る。

「今日はこれでいいかな」

 本を抱えて、いつもの警備兵に本を見せてから部屋を出る。視界の端で見慣れぬ警備兵がドアの前から離れるのが見えた。

 礼拝堂に出ると、すぐに向かい側の扉に向かって歩き出す。

 孤児院につながる扉の前まで来ると、グイっと肩をつかまれた。

「え?」

 振り返れば、図書館にいたくりくり髪の青年だ。

「と、図書館の本は、持ち出し、禁止」

 少し高めの声でそういいながら青年は私が手に持っている絵本を指さした。

「神殿図書館の本は、神殿からの持ち出しが禁止です。ここはまだ神殿の中なので、問題ないと思いますが」

 私の言葉に、ぐっと青年は言葉を詰まらせた。

「き、詭弁というものでは……?」

「詭弁なんて、ずいぶん難しい言葉を使うんですね?」

 さすが読書家だなと、嬉しくなって口にする。

「な、いや、普通、使わないのか?」

 なぜか、青年がしまったというように口をふさいで慌てた様子を見せた。

「私も、よく言われます。難しい言葉を使ったつもりがなくて話をしていると……馬鹿にしているのかとか、生意気な口を利くなとか、女のくせにとか……」

「あ……そう、なのか?」

 青年が首を傾げた。

「あなたは、女性が数学の話をすることに憤りを感じたりしないの?」

「甘い菓子の話ばかりより、楽しいと思う」

 ああ、こんな人もいるんだと……少しうれしくなった。

「詭弁と言われようが、神父様にも許可をいただいている話です。私が本を盗むか心配ならばついてきますか?」

 もう少しこの青年と話がしたいと思ったけれど、せっかくの時間を無駄にしたくはない。

 青年に背を向けて、扉を開く。

「あ、リアおねーちゃんだ!」

「おねーちゃんいらっしゃい!」

 孤児院の中庭で遊んでいた子供が、私の姿を見つけて駆け寄ってきた。

「孤児院……」

 後ろで青年のつぶやきが聞こえた。もしかしてこの扉の向こうのことを知らなかった?扉の外には塀に囲まれた中庭があり、その奥に孤児院の建物がある。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 図書館と孤児院に居る時は、リアと名乗って居るのではないでしょうか? この後の展開でもリアとずっと名乗ってますし。
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