おは
「お針子として、働く予定なの?」
ディラの質問に首を横に振る。孤児院の子供たちの将来の心配をしてくれてるなんていいひとだなぁ。あ、またいいひとだなぁって思ってるよ、私。
なんで、こんな些細なことで、どんどんディラの株が私の中で上がっていくんだろう。
「お針子として働く予定はないわ。縫物の腕もサリーほどじゃないにしろあるんだけれど、決定的な欠点が一つあるの」
私の言葉に、カイがぷっと小さく笑っている。あら、まだ話を聞いているのね。
「け、欠点?」
ディラが眉を寄せる。
「そう。実は2人とも男の子なの。お針子は女の仕事でしょう?」
女性差別というわけではない。女性の体に触れたりする仕事だから女性の仕事というわけだ。
「お、男の子も、裁縫を?」
ディラがぎょっとする。
「あくまでも目的は文字を覚えることだから、えっと……内緒ね」
貴族も庶民も裁縫は女がするもの、女の手習いというイメージが強い。学校でも、女と男と別れてする授業があって。女は裁縫。男は乗馬である。
男が縫物をするなんて、女みたいだとか馬鹿にされる対象。まったく世の中には、女のくせにとか、男のくせにということが多くて時々嫌になる。
「おかげで文字は覚えてるし、計算もできるから、商店で募集がかかったら教えてほしいと神父様が声をかけてくれているの」
ディラがガタンと椅子の音を立てて立ち上がった。
「どうしたの?」
「文字が読めて計算ができて、そのうえ裁縫もできる?」
あら?ディラの言葉がいつもよりすらすらと出ている。こういう話し方もできるんだ。
「ええ、そうよ。カイほどむつかしい文章は読めないけれど、日常で使う言葉なら問題ないわ。計算は、私よりは早くて正確ね」
「私より?」
ああ、基準が私じゃ説明になっているようでなってないか。そうよね。私の計算能力をディラは知らないんだもの。
学校で算術の成績はトップだって教えてあげれば説明になるかな?と、思ったけれど。
女のくせに生意気だ。計算ができるからっていい気になるなよ!というクラスメイトの言葉が思い浮かんでぎゅっと体が硬くなる。
嫌われたくない。ディラに……。
「あ、あの、あの子たち、暇があれば計算ゲームをして遊んでいるみたいだから……ね?カイ」
カイがすぐに頷いて、棚から一つの本を持ってきた。計算練習用の本だ。たくさんの問題と巻末には答えが書いてある本。学校では教師が口頭で問題を読み上げ、紙に書き写してから問題にとりかかったりする。ここでは紙が使えないから、問題を見ながらメモも取らずに暗算するしかないんだけれど。




