と
ディラが驚きが隠せないという顔をする。
「そこまで、考えて……まだ、小さな子供だというのに……」
「庶民だから、孤児だから、子供だから……せっかくの才能も、きっと生かす場はない……」
ディラが立ち上がった。
「な、なんという、これは、国の損失だ……」
憤っているように見える。
「教会に図書館があり、庶民のための学校もあるのは、7代前の王が、広く才能あるものを登用しようとしてのこと……現実は……」
「ふふ、ディラは物知りね」
図書館ができた理由まで知っているのには驚きだ。確かに7代前の王は貴族以外からも才能あるものを登用しようと試みた。その結果は芳しくない。
わかりやすい「強さ」を競う騎士への登用は進んだ。お金がない者も体を鍛えることはできるから、出世を夢見て多くの庶民が採用試験に臨んだからだ。一方、官吏への道は遠い。
お金がなければ学校へ行けない。学校へ行かなければ文字の読み書きができない。文字の読み書きができなければ学べない。試験問題すら読むことができない。
「いや、カイ君ほどは、物をしらない」
ディラが自嘲気味に笑った。
「ところで、リアがそれを読むの?」
カイが教えてくれた農業技術の本を開くと、ディラが尋ねる。
「それは、どういう意味?」
胸がぎゅっと締め付けられる。
ディラは違うと思ったのに。ディラは女のくせにそんな本を読むのかと、差別的な考えがない人だと思ったのに。そうじゃなかったの?
と、思うと、苦しくなる。
「そんな、難しい本を読むの?」
頭がガーンとたたかれたようだ。
「わ、私が……これを読むのがそんなにおかしい?」
ディラが突然照れたようにほほを染める。
「読んで、あげようか?」
は?読んであげる?首をかしげると、ディラが慌てて言葉を足す。
「この間の、読み聞かせ……」
ああ、読み聞かせが楽しかったというから、私に読み聞かせようと思ったの?
「絵本、文字を指でなぞりながら、ゆっくりだったから、その本を読むのは大変じゃない?」
「ぷっ」
ふふふ。思わず、噴出してしまった。
「ありがとうディラ。うれしい」
ディラは、女のくせに難しい本読むのかと思ったわけじゃない。
私が文字を読むのが苦手だと思ったんだ。苦手だと思っているのに、難しい本を読もうとしてるのかと馬鹿にするわけでもなく、逆に……助けようとしてくれた。
あんまり嬉しくて、ディラの手を握る。
「あ、えっと……」
「ディラ、本当にありがとう。私のことを気遣ってくれて。でも、大丈夫。私、これでも本を読むのは得意なの」
カイが、私たちの会話を聞いていたのか言葉をはさんだ。