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「まぁ、でも、あれよ。傀儡にも、いい傀儡と悪い傀儡があるじゃない?]
「は?」
「傀儡って、誰かに言われるがままに動く操り人形みたいな意味でしょう?有能な宰相に言われるままの王の方が、下手に馬鹿な事し始める王よりもむしろいいわよ?問題があるのは――国民ではなく自分の良くのために人間。それは王だけでなく周りの人間も。悪いのは操られる王じゃない。悪いのは、周りの人間よ」
ディラが急に黙ってしまった。
「いい傀儡……」
あっけにとられたのかしら?
「立派な王になるには……時には傀儡でもよい……と?」
「国のために動いている人の声を聴けるのは大事なことだもの。王自身が有能であるよりも有能な家臣に恵まれた方がいいわよね。……だから……」
ぐっと言葉を飲み込む。
皇太子のような、美人と結婚したいなんて言い出すような人に、果たして有能な家臣が付くのか。とても心配だ。
「わかった……」
ん?ディラが小さく頷いた。
それから、カイの正面の椅子に腰かけると、カイに話しかける。
「カイは、もし官吏になれたら、何が、したい?」
もし……なんてずいぶん残酷な質問をする。なりたくてもなれないというのに。
でも、だけど、カイは気にした様子もなくディラに答えた。
「本が読みたい」
カイの言葉に、ディラがふっとほほ笑んだ。
「そうか」
「官吏になったらお城の図書館の本も読めるってリア姉さんが教えてくれた。ここの何倍も本があるって」
「うん、いっぱいある」
カイが希望に満ちた表情を見せる。
「そうしたら、見つかるかもしれない。川を氾濫させない方法」
ぎゅっと胸が痛む。
ディラの横に腰掛け、そっと耳打ちする。
「カイの両親は川の氾濫で……」
そうかと、ディラが小さくつぶやく。
「川が氾濫する、場所は、ある程度目星がつく……過去の記録も、ある……村を作る場所……を検討させるのでは、駄目かな?」
カイが首を横に振った。
「川が氾濫する場所は、土地が豊で、数十年に一度の氾濫が、山から肥沃な土を運んでくるともいわれている。作物がよく取れる場所で、畑もいっぱいある」
ディラが関心したように声を上げる。
「よく、知ってるね」
「本に書いてあった。きっと、もっとたくさん読めば書いてあると思う。川の氾濫を最小限で食い止める方法」
ディラがカイの頭をなでた。
「書いてあればいい、書いてなかったらどうする?」
カイがちょっと考えて顔を上げる。
「作物がたくさんとれる土の作り方を探す。山の肥沃な土を運んでくるというのなら、山の土がなぜ肥沃なのか。人の手でも畑を肥沃な土にかえることはできないのか。具体的な方法が書いてなければ、ヒントとなることを参考に実験する」