それ
椅子に座っているときにも子供だと分かるけれど、立ち上がるとカイの身長は120センチほどしかない。それを見れば、10歳位だとすぐにわかるだろう。
10歳の子が、数学の本を読み、図書館においてある本についていろいろと把握しているのだ。
しかも、本来文字が読めるような環境で育っていない孤児が。
「ありがとう。まずじゃぁ、農業の技術の本を読んでみるわね。そのあとまた、ほかの本の場所も教えてね」
「うん。分かった」
カイがにっこりと笑って席に戻って続きを読み始める。
「……すごいね、カイ……。彼のことかい?出世するというのは……」
ディラの質問に首を横に振る。
「え?でも、あれだけ、本を読めれば、それだけでも十分仕事にありつける……と。むしろ、官吏採用試験も、通るかもしれない……よ?」
「そうね。管理採用試験を受験できれば、すぐにでも合格するかもしれないわ」
今、私はどんな顔をしているだろう。
カイは本当に賢い。計算だって得意だ。法律も暗記している。読み書きも人の何倍も速くて正確だ。
「でも、無理なのよ。カイは、試験を受けることができない」
私の言葉にディラが首をかしげる。
「採用試験に、年齢制限は、なかった……はずだよ」
「うん。だけれど、試験を受けるために必要な書類には、何々領のどこどこ村のなんとかの息子だとか書く必要があるのは知ってる?書類に空欄があればその時点で不合格だわ」
ディラがショックを受けた。
「孤児が試験を受けるなんて誰も想像したこともないんでしょうね。文字が書けるには、当然親がいて、教育を受けたであろう子供だと。孤児は努力を重ねても、絶対になれないことがあるのよ。子供たちのせいじゃないのに。親がいないのは、この子たちのせいじゃないのに……逆に、能力がなくたって、王子は王になれるのよ」
はっ、しまった。思わずチャラ皇太子を思い浮かべて……。
「お、王子に、能力がない……?」
「ご、ごめんなさい、違う、あの、聞かなかったことにして。そ、そう、どこかの国の物語、本の話。ね?不敬とかそういうあれじゃないから……」
つい、うっかり。
「……そうだね。何の努力もしなくても王になれる。だけれど、努力をしなければ、王として認められない。ただの傀儡。飾り物になるだけだ」
ほっ。
よかった。どうやらディラもアレに関しては思うところがあるようで。