うえ
「まぁ、そうですけど……ああ、せっかくのミリアージュお嬢様の美しさが……」
髪の毛を手でもしゃもしゃとかき混ぜ、それから手櫛で簡単に一つにまとめる。
「あああ、せっかくつやが出るまで丁寧に櫛で解いた髪が!」
マールには悪いと思うけれど、髪の毛が綺麗なだけで、庶民っぽさが薄れるから仕方ないのよ。
本当はかつらでもかぶって髪色も隠したいくらいだけれど、……あいにく貧乏で。かつらは高いため買えなかった。
王都のいつもの場所で馬車を下り、5分ほど歩いて教会へ向かう。
「あ、あれは……」
教会の入り口には、この間の姿は美しいけれどちょっと目つきが怖い警備兵が立っていた。
目を合わさないように、速足で教会に駆け込もうと前を通り過ぎる。
すると、ドアに警備兵の手がさっと伸びた。
何?通せんぼでもされるの?
「どうぞ」
身構えて顔を上げると、警備兵がドアの取っ手に手をかけて、開いてくれた。
う、わ。
私ったら。嫌な人だと決めつけて、逃げるように小走りに通り過ぎようとした。態度、悪かったよね。
「ごめ「すまなかった」んなさ……え?」
謝ろうと頭を下げると、警備兵の謝罪の言葉が重なった。
「この間は、君を疑って、悪かった」
びっくりした。
「あの、私こそ、いつもの警備の方も神父様もご存じだからと、驚かせてしまいましたよね。普通は図書館の部屋から本を持ち出すようなことはないんでしょう?ごめんなさい。あなたは、本を守ろうとする仕事熱心な方で、感謝しなければならないのに……ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げて、警備兵の開いてくれたドアをくぐった。
図書館へ続くドアを開くと、ドアの入り口付近にはいつもの警備兵。
「こんにちは」
軽く挨拶をして部屋を眺める。
今日のお客さんは、孤児院のカイと、それから……。
「ああ、リア、よかった。会え、た」
奥の方の席に座った長身の男が立ち上がる。
ひどい猫背で、くるくる髪の青年。
「ディラ、こんにちは。私を待っていてくれたの?」
何だろう?
「この間の、お詫びをしたくて……孤児院の、子供たちのために、活動してくれていたのに、失礼なことを……僕は、その、自分の損得以外のことで、行動を起こす人がいると言う認識が……なくて。リアは素晴らしい人で……」
いろいろと一生懸命言葉を選びながら謝罪を口にするディラ。
「ディラ、そんなに私は素晴らしいわけでもないわ。結局自分の損得で動いているだけだもの」
あまりにも持ち上げられすぎて背中がもぞもぞするのでディラの言葉を遮る。