第2話
喪女は損である。
「汚ないわね。近づかないでよ」
別に、汚くはない。むしろ、風呂など1週間に1度入れば多い方だという人よりはよほど清潔だ。
「ああ、いやだ。醜いものを見ると私まで醜くなる気がしますわ」
「ふふ、でも、あなたがいるおかげで、私の美しさがより引き立つというもの」
「そうそう、隣のクラスのヘンリーがあなたのことを好きだと言っていたわよ?」
「くすくす、なんて、嘘に決まってるでしょ!あんたみたいな女、誰も好きになったりしないわよっ!」
そう、私は清潔で汚いわけじゃない。
さらに言えば、醜いというほどひどい容姿でもない。
彼女たちのようにおしゃれに興味がなく、実用性を重視して個性的ななりをしているだけだ。
「薄汚い灰色の服、いつもあれを着てるのはほかに服がないからかしら?」
「あら、かわいそうよ。見たらわかるじゃない。スカートの丈が短いもの。新しい服を買えないのよ」
灰色なのは、汚れが目立たないから便利というのもあるけれど、地味な色で、顔色も悪く見えるので好きだ。
丈が短いのは、女性が着るくるぶしまでのスカートだと踏みつけて転びそうになることがあるから実用的ではない。足を見せなければいいのだから、ブーツをはけば問題ない。ので、くるぶしよりも10センチほど短いものを着用している。これ、裾が汚れなくて一石二鳥。
クラスメイトの来ている服は、華やかな色のものが多いが、その多くがよく見ればスカートのすそが薄汚れている。あと、時々見える襟元も。なかなかあの黄ばんだ色は落ちないのは分かるけれど。いっそ汚れが目立たない色を着ていた方がすがすがしいと思うんだけれど。
どうやらおしゃれをしたい、男の子たちの気を引きたい同年代には私の服装は理解されないようだ。
――理解してほしいとも思わないのに、なぜ人と違う服装を好むだけでいろいろと蔑みの言葉を浴びないといけないのか。
というか、ここは王都にある学校だ。
貴族たちが通う王立学園より下の庶民や下級貴族が通う学校である。庶民と言っても、裕福な一部の人間しか通えない。
いわば「贅沢の場」である。学校へ通わせてもらえるのは贅沢であり、その機会に恵まれたのであれば喜んで勉強するべきなんじゃないかと思うんだけれど。勉強に、おしゃれは、必要ですか?
■
「なぁ、リアならすぐやらせてもらえるんじゃないか?」
「違いない、一生男に縁がなさそうだもんな~でも、さすがにあれだけは嫌だわ」
「ちげぇねぇ。いっつも本読んでてさ、女のくせに、本とか読んで笑えるよな」
「本当、勉強ができたって、誰かに嫁にもらってもらえるわけじゃねぇのに。もっと他に学ぶことあるだろうって」
女のくせに?本を読んで知識を得ることに、男も女も関係ないよね?
というか、むしろ、その馬鹿にする女よりもできの悪いことを恥じて勉学に励もうとか思いませんかね?
なぜ、容姿を馬鹿にすることで勝ったような気分になって満足しちゃうんでしょう
「そうだ、ゲームしようぜ、負けたらリアをデートに誘うってどうだ?」
男たちは、時々私を遊びの道具として利用しようとする。迷惑極まりない。
罰ゲームでデートに誘われても、いや、普通にデートに誘われたって受けるつもりはない。こっちにも都合というものがある。
だけれど、断ると……。
「生意気だぞ、せっかく誘ってやったのに!お前みたいな不細工が、断る権利なんてないんだよっ!」
「っていうか、罰ゲームで仕方なくいやいや誘ってやってんのに、本気にしたのか?あ?何、真面目に断ってんだよ!なぁ?おとなしく言うとおりにすればいいんだよ!」
胸倉つかまれるならまだましな方。
何度か逆切れして殴られたこともある。
……まったく、理不尽極まりない出来事に何度も遭遇する。
喪女は損である。
――だけれど……。
いやらしい目で男たちに見られないだけ、美人よりもマシだと思っている。
授業が終わると、いち早く教室を出る。
もたもたして、また女生徒たちや男子生徒たちにいじられるのを避けるためだ。めんどくさいんだよね。あれ。
「さて、今日は教会図書館によって帰ろう」
本は貴重品だ。多くの本が集められている場所は限られている。
お城と図書館が主な場所だ。
図書館には、誰でも利用できる教会図書館と、生徒が利用できる学校図書館と、許されたものだけが利用できる王立図書館がある。
どこも、貸し出しはしていないから、通って読むしかないのだ。
「この間の本の続きを読もう。迎えは4の鐘に頼んであるから、1時間くらいは読書に当てられるはず」
教会には礼拝堂がある。礼拝堂の奥には3つの扉があり、一つが図書館へと通じる扉。一つは神父様が生活する場所。もう一つは併設の孤児院へつながる扉である。
図書館へと通じる扉を開く。