リーダーは頭に手ぬぐい
「お、お嬢様?」
サリーは、裁縫の腕を買われてお針子として仕事が見つかった。そして今も幸せそうに仕事を続けている。
財産は奪われることもある。土地もお金も、きっと産業も技術さえも奪われていくだろう。
だけれど、個人の技能は奪いようがない。
いくら技術を学んだとして、すぐにできるわけではない。練習し何度も試行錯誤や失敗を繰り返した末に身につく技能……。
「ねぇ、サリー、うちの領民たちが得意なことって何かしら?他の領地に住む人たちに勝っていること」
マールはうーんと眉を寄せて考える。
「人がいい?」
「それは否定はしないけれど、そうじゃなくて、なんていえばいいの?マールなら私を美人にする化粧の腕があるでしょ?領民たちはどんな能力があると思う?」
マールが再びうーんと眉を寄せた。
「あれ、ですかね?」
マールが畑の横に無造作に積み上げられた切り取った竹を指さした。
「竹?」
他の領地にはあまり竹は生えていないという。
そもそも、竹は、どんどんと根を広げて畑を侵食する厄介者だ。畑に広がらないように切り倒し切り倒ししても、春になればどんどんタケノコを出して増えていく。いくらタケノコがおいしく食べられるとはいえ、好んで竹を栽培しようなんて領地はないだろう。
薪にすらならないのだ。生乾きで燃やしてしまうと、爆ぜて危険なうえ、中が空洞になっており薪ほど火のもちもよくない。
「そうですよ。うちの領民ほど、竹を使っていろいろ作れる人たちは少ないと思いますよ。水筒、コップ、スプーン、フォーク、籠、家の扉に棚、それから」
マールが指折り数える。
確かに、うちの領地の家の中には竹製品であふれている……けど。
「なんせ5歳の子でも作れますからね。小さいころから竹に触れる竹名人ばかりですよ」
そう、5歳の子供でも作れるのだ。切っただけの竹のコップ。切って穴をあけただけの水筒……籠を編むのも、7歳のころにはだれでもできる。
農地が少ないから、竹で作った品を王都で売って生活している者も多いのだ。
……技能……というほどのものではないよね。
5歳の子でもできるんだから。殺すのは惜しいとか、失うと損失だというほどことではない……。それこそ、代わりなどいくらでもいるというやつだろう。
「なかなかむつかしいわね……」
積み上げた竹の前で腕を組んで唸っていると、竹刈りリーダーが来た。