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「くふ、くふ、ついに、ミリアージュ様にも春が」
ニヤニヤと笑うマール。
「ち、違うわよっ!ああいう人となら結婚してもいいかもしれないと思っただけで、別に好きとか、そんなんじゃなくて」
さらにニヤニヤの止まらない様子のマール。
「ああいう人ですか、そうですか。どのような人かお聞かせ願いますか?」
「し、知らないわ、知らないってば!だから、もうっ!今はアレの話でしょう!時間がないのよ、アレ対策しないと!じゃないと、破滅だわ!」
話を逸らすのと、本当に大変な状況なのと、頭からディラの姿をかき消す。
「えーっと、どういうことでしょう?まさか、いくら嫌悪しているからと、アレを怒らせるようなことをしでかしてしまったのですか?」
破滅という言葉にマールが青ざめる。
「いいえ……そうではないわ。アレは……国のことなど考えていないアホよ。女にうつつを抜かす馬鹿ね。言われるままに宝石やドレスを買い与え、財政を破綻させるのは間違いないわ。きっと、ハイエナのような者たちがおこぼれをもらおうとおべんちゃらですり寄り、どんどんと腐敗していくでしょうね。国力が落ちたら、最悪隣国から攻め込まれ……あああ、どうしたらいいの、ねぇ!」
「まさか……本当ですか?」
「だって、政略結婚が普通な王族にあって、美人と結婚したいと言い出すようなアレよ?しかも今日は皆にドレスをプレゼントするとか言い出して。いつまでも美しくいてほしいから、いくらだって買ってあげるみたいなこと言い出して……完全に黒よ、黒。ダメな見本。いさめる人はいないのかしら?」
マールがふぅっと息を吐きだす。
「遅くに生まれた一人息子ですからねぇ……親馬鹿ってどこにでも……」
「おはようございますミリアールお嬢様。今日から半月ほど学校は休みになりますが、何をなさいますか?」
そうだった。学校は休みだ。
いつもならば図書館にこもって読書三昧できると喜ぶところだけれど。
「領地を視察しようかしら。マール、一緒に行ってくれる?」
「ええ、もちろんですよ」
領地といっても、男爵家の屋敷を一歩出たところから街が広がる。いや、街というよりも農村に近い風景だ。
建物が立ち並ぶ区画があり、その向こうに農地が広がる。いや、広がるほどのサイズもなく、竹林が広がり、その後ろに山だ。
街と農地をぐるりと一周しても、2時間とかからない。
いつもの動きやすく地味な灰色の服を着る。学校へ行くわけではないのでそばかすや眉毛のメイクはなし。簡単に髪を縛って惜しまい。
「あ、お嬢様だ、おはようごぜーます!」
「わー、ミリアージュ様、これ、お花あげる~」
領民たちが皆笑顔で挨拶してくれる。私の大切な”家族”たち。
 




