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「いいえ、駄目じゃないわ。少しくらい自分のために使えばいいのにとは思うけれど……。まだ見習いだからいくら優秀でもこれ以上給金は上げられないの」
そうか。少ない給金のほとんどをサリーは孤児院の子のために。それを、このお針子さんは心配してくれてるんだ。優しい人がいてよかったね。
「大丈夫です、あの、十分もらってます。それに、えっと、欲しい物はその……十分手に入ってますから。お腹いっぱい食べられますし、皆さんによくしてもらってますし、仕事も楽しいですし、えーっと、贅沢すぎるくらいなんです」
サリーが嬉しそうに笑う。
お針子さんがぽんっとサリーの頭をなでる。
「じゃぁ、私たちも目いっぱい頑張りましょう!」
ああ、ほかのお針子さんも張り切りだした。
「ドレス選考会で、殿下から1位を獲得したドレスを作ったチームには、特別手当てが出るからね!もちろん見習いのサリーにも」
へ?
……ええええっ!そんな!そんな話聞いちゃったら……。
「私も、皆さまが作ってくださるドレスを1位が取れるように頑張って着こなしますわ!」
としか、言えないじゃないのっ!――おかしい、どうして、頑張る方向に向いてしまったのか……。
4の鐘が鳴るころに城を出る。
「どうでしたか、お嬢様?」
馬車にのるなり侍女のマールが期待に満ちた目を向けてくる。
「ダメだわ」
「へ?ミリアージュお嬢様がほかのお嬢様方に負けていたのですか?そ、それは私めの腕が悪かった責任……」
「ああ、違う、違うって。ダメなのは、アレよ、アレ。名前は出せないアレが、もうどうしようもないアホで」
アレとは当然皇太子殿下のことである。
それはマールに伝わったようだ。
「好みではないということですか?でも、貴族というものは政略結婚も普通のことですよ、お嬢様。男爵家は選べる立場にございません。腹の出て禿げ上がった親子ほど年の離れた人よりはマシだと割り切らなければ……」
マールの言葉に、腹の出て禿げ上がったお親子ほど年の離れたスケベな目をして肌が脂ぎった男を想像してぞっとする。
「わ、私、貴族にこだわりはありませんわ!相手は庶民でも構いませんっ」
マールがおやっと首をかしげる。
「ミリアージュお嬢様、誰か好きな人でもできましたか?いつもでしたら、結婚はしませんと言うのに」
え?
あれ?本当だ……。
好きな人?
ふと、ディラの姿が思い浮かぶ。平凡な容姿をした青年。
姿は平凡だけれど、子供たちを気遣ったり、素直に謝罪できたり、そして……女のくせにと言わない、本が好きな男性。




