12
「いやだわ、純情ぶって殿下の気を引こうとしたに違いませんわ」
「なんて策略家なんでしょう。絶対に負けていられませんわ!」
うう。ご令嬢の視線が痛い。目立つつもりなんてなかったのに。
「みんな選んだみたいだね。別室これから試着と採寸をしてもらうよ。それからサイズ直しが終わってから、各家に届けさせるからね。次の選考会には着てきてほしいな。子猫ちゃんたち」
殿下が退室すると、侍女たちが入ってきてそれぞれ小さな間に通されお針子さんたちに囲まれた。言われるままに手を上げたり下げたり。
皇太子は17歳か。陛下は50になるかならないかだったはずだ。王室系譜の本だと、この国は王が崩御されてから譲位するよりも、生きている間に譲位することが多い。通例では、陛下が60歳になると位を譲る。
……10年か。10年の間に何ができるだろ。
「あら、あなた……」
お針子の一人に目を止める。
13,4の若い少女だ。
「ああ、この子はまだ見習いなのですが、今回は10着を同時にということで、人が不足しておりまして……その、失礼がありましたでしょうか?」
20代のリーダーらしき女性が慌てて、少女をかばうように進み出た。
うつむいてしまった少女の顔を、下から覗き込む。
ああ、やっぱりそうだ。
「あの、若いですが、腕は確かなんです。小さなころから針を持って練習を繰り返していたようで、決してほかの者に劣るというわけではございません」
「よかったわ、サリー。よい先輩に恵まれて、しっかり仕事をしているようね」
孤児院にいた少女サリー。半年ほど前に、縫物の腕を買われて住み込みの仕事が見つかったと神父様から聞いていた。
「え?な、なぜ、名前を?」
なぜって、忘れちゃったの?リアだよ。縫物をはじめに教えたのは私でしょう?
「あ、あー、あ、」
しまった!リアの姿じゃない!今はミリアージュだった。
「孤児院に顔を出している、その、知り合いに聞いたの。その、裁縫を教えたらとても熱心に練習を重ねて、仕事を見つけた子がいると……時々、孤児院の子たちにお給金でお菓子を買っていってあげてるんですってね。子供たちはとても喜んでいるそうですわ」
私の言葉に、サリーが目をキラキラとさせた。
「ミア姉さんのお知り合いなんですか?」
小さく頷く。
「あの、私、一生懸命このドレス縫います!ミリアージュ様がほかの誰にも負けないように、頑張りますっ!」
あ、いや。うん、負けてもいいんだけど。
「そうだったの、サリーはお給金を何に使っているかと思ったら、自分のためでなく孤児院の子のために使っていたのね……」
お針子さんがちょっと首を傾げた。
「ダメでしたか?」
サリーが不安な顔をする。




