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……なんせ、自分が選ばれる気満々の方たちに聞かれて困るようなことは話せないわけで。
ほかのご令嬢たち同様、クッキーの味がどうの、どこの何々がおいしいだの、新しいお菓子のレシピがどうのと、さして興味もない話で時間をつぶす。
ふと、神殿図書館で会った青年を思い出す。「甘い菓子の話ばかりより、楽しい」とディラは言っていたなぁ。うん、本当に、ご令嬢が集まるとお菓子の話ばかりかも。……あれ?お菓子の話?
貧乏男爵家の私なんて、お菓子は何か月に1度食べられるかどうかだ。庶民ともなれば1年に1度口にするかどうか……いや、貴族よりよほど金回りのよい庶民もいるにはいるけれど。周りにお菓子の話ばかりする女性たちがいるっていうkとおは、ディラはそれなりに裕福な家の人間ってことかな?
そうこうしてる間に、1の鐘が鳴り響き、皆で立ち上がり殿下の入場を待つ。
「お待たせ、僕の子猫ちゃんたち」
……待ったけど、待ってないし、何が子猫ちゃんだ。
という感情は見せずに笑顔笑顔。
赤い上着に金の刺繍。深いブルーのズボンは瞳の青と合わせているのだろうか。頭が金色、上着が赤、ズボンが青、随分と派手ないで立ちだ。
顔立ちが美しいから似合ってはいるけれど、センスがいいとは思えない。ああ、おしゃれっけゼロの私がセンスを語るのもそもそもナンセンスですが。
あれがおしゃれなのかもしれない。うん、好きじゃないですね。
「今日はね、僕から子猫ちゃんたちにプレゼントを持ってきたんだ」
両手を広げて宣言する殿下。それを合図に、マネキンに着せた色とりどりのドレスを使用人が運び込んだ。
「ドレスを用意したよ。好きなドレスを選んでほしい。僕は美しい人を妃にしたい。それに将来にわたってずっと美しくいてほしいからね。自分をより美しく見せるドレスを選べるかどうか、センスを見せてほしい」
ぐえ。センス勝負と来たか。まぁ、勝つ気がないからどうでもいいけれど……問題は……。
ずっと美しくいてほしいとドレスをプレゼントするなんて、妃になったら美しさを保つために好きなだけドレスや宝石を買っていいって言ってるようなもんじゃない!これは駄目だ。本格的に、殿下は駄目だ。
妃の浪費を止めるようなことをするタイプじゃない。
本格的にまずい。この国は、殿下が王位についたら、あっという間に傾きそうだ。
国民に重税を課すことも考えられる。疲弊した国をチャンスとばかりに他国が攻めてくるかもしれない。
これは、冗談じゃなく男爵領が生き残る方策を考えて準備を進めないといけない。
ご覧いただきありがとうございます。
失礼いたしました。第3話が第2話と重複した内容となっていたようです。入れ替えました。




