レモンパイ
今、世界ではレモンパイが大ブームだ。
みんながレモンパイを食べたがっている。
私はレモンパイを食べたことがないから、レモンパイの素晴らしさはわからない。
だが、みんながおいしいおいしいと言うからには、きっと素晴らしく美味しいのだろう。
そんなに人気なら私もレモンパイが食べたい。
行きつけのケーキ屋さんにレモンパイを予約注文して、学校帰りに取りに行くことにした。
シェフが「自信作ですよ」と言うだけあってレモンパイは食べれる花でお洒落なデコレーションが施されていて、私は見ているだけで幸せな気持ちになる。
スマホでレモンパイを何枚か撮影してSNSに投稿。
今人気のレモンパイだ。
みんなが「いいな!」「いいな!」と言ってくれる。
私は満たされた気持ちで、レモンパイを包丁で切って食べた。酸味と甘味の絶妙さがたまらない。
「おいしい!」
「ふふん!まあ、お前のために作られたからな!」
レモンパイは誇らしげだった。
私は明日もレモンパイが食べるのが楽しみだなと思いながら、その日のティータイムを終えた。
翌日。
ティータイムに昨日の残りのレモンパイをまた包丁で切る。今日は冷やしたままじゃなく、オーブンで温めてから食べるのだ。
昨日と違った味わいが美味しかった。
翌々日。
ティータイムになり、レモンパイを食べようとして。
レモンパイの箱を見たら賞味期限が今日の朝だった。
「賞味期限過ぎちゃったみたい」
半月型に切られたレモンパイが「え…」と渇いた声を出した。
私はスマホから、行きつけのシェフに電話をかけてた。
「はい、深海西洋菓子館第495店でございます。」
「もしもし、いつもありがとう。レモンパイをまた頼みたいんだけど、いい?」
「ああ、お嬢様!いつもありがとうございます。実はですね、新作のチェリーパイが大変な自信作でして、来週から売り出そうと思うのですが、よかったら明日お嬢様のために焼かせていただきます」
チェリーパイか。
食べたことはないが、自信作というからにはきっと美味しいのだろう。
しかも発売前の新作。
写真を見せたらみんなに「いいな!」と言ってもらえる。
「ええ、じゃあチェリーパイをお願い」
私はチェリーパイを予約した。
電話を終えた私にレモンパイが話しかけてきた。
「何で俺がいるのに他のレモンパイなんか…いやチェリーパイなんかを頼むんだよ!」
「なんでって、賞味期限が切れちゃったから」
お腹を壊してしまったら大変だ。
「じゃあ初めから捨てるつもりで注文したのか!?」
「そんなことないよ、食べ切るつもりだった。でももう今更だし、仕方ないよ。ごめんね。」
レモンパイが「待てよ!まだ話は…」と言っていたが、このままでは腐ってしまう。
私はレモンパイを生ゴミとして廃棄した。
レモンパイを残してしまったのは確かに私のミスだが、賞味期限がもう切れてるレモンパイ相手にどうしようもない。
明日のチェリーパイはちゃんと食べ切れるように考えて切り分けよう。
明日が楽しみだ。