モンブラン
3時のおやつの時間にモンブランが私の部屋に運ばれてきた。モンブランは栗のクリーム部分はすごく好きだが、その中のしつこいくらい大量の生クリームは好きではない。外側だけを食べて捨てるのも汚いし、モンブランは他の人に譲ろうかなと思った。
「あの、待ってください」
私のがっかりした雰囲気を察したのか、モンブランが口を挟んできた。
「私、ケーキです」
なにを言ってるんだこのモンブランは。
「うん、そうね」
私はちゃんと笑顔で返す。
捨てるにしても、誰かに押し付けるにしても、あまりモンブランを怒らせるつもりはない。
あくまでも穏便に私はモンブランを食べたくない。
「よかった!では、行きましょう!」
モンブランはぱぁぁぁっと栗を輝かせて、私を外へと連れて行った。
モンブランは高級栗を乗せているだけあって、金はもっているようだった。私は何一つモンブランに「ほしい」と言ってないが、モンブランは私が欲しいと思うものを毎日買ってくれた。
いくら尽くされたところで、私は生クリームが嫌いである。私はモンブランを食べるつもりはない。
プレゼントも、モンブランが勝手に買ったもので、私の意志は何一つ関わってない。
私は注意を怠らなかった。
モンブランとの会話記録を残して、モンブランのことを第三者に相談して、あくまでも「モンブランが私のために勝手にプレゼントを買う」ことを悩む証拠を残した。
現に、私はモンブランのプレゼントも毎回断っていたのだから。断っても、モンブランが私にどうしても渡したいと言うから、仕方なくもらってやったのだ。
モンブランはある日、頭の栗を失っていた。
「栗はなくなったの?」
私は聞いた。
「借金のかたにしたんです」
モンブランは答えた。
ああ、愚かなモンブラン。
それは私に言っていいことではない。
「モンブラン?馬鹿なの?それを言ったら私が『借金のためにモンブランが栗を失ったこと』を知ったことになるのよ?ねぇ、モンブラン?借金があるケーキからなんて、私プレゼントもらいにくいんだけど?馬鹿なの?ねぇ、モンブラン、借金したの?」
モンブランはクリームを真っ青にした。
ようやく間違いに気が付いたか。
「いいえ、私は借金をしてません。栗は気分転換です。それより貴女に今日はこれを受け取ってほしくて」
モンブランは私が欲しがっていたものを渡した。
私は断り、でもモンブランがどうしても私にあげたいと言うからもらってあげた。
ただ。
私は少し怖くなった。
借金は「私は知らなかった」と言い訳できるよう釘を刺したが、でも借金からプレゼントを貰うのは言い訳が通用しない可能性もある。
もうモンブランはだめだ。
モンブランに嫌いだと気がつかせてあげよう。
私はモンブランを罵り、否定してあげた。
栗の乗ってないみすぼらしいモンブランは傷付いてるのをバレないようにして私の前から消えた。
モンブランがその後、廃棄されたか、誰かもの好きが食べたかどうかは知らないし興味もない。
けれど、私が否定してあげたときのモンブランの惨めな耐え方は、何故か思い出すと心に幸せを与えてくれた。