フォンダンショコラ
私の大好きなフォンダンショコラは、私の言う事になんでも従ってくれる。
私が「冷蔵庫でひんやりして」といえばひんやりした味わいを。
私が「オーブンで温めてさせて」といえば中から熱々とろとろの美味しいチョコレートの味わいを。
フォンダンショコラは私を愛してると言ってくれる。
愛してるから、貴女の言うことはなんでも聞いてあげたい、と。
私はフォンダンショコラに次々とお願いを言って、それを叶えてもらうのが大好きだ。
私のために困ったり、悩んだりしながらも、私のお願いを何より優先して叶えてくれるフォンダンショコラが大好きだ。
ちょっとしたわがままはどんどんエスカレートしていった。
どこまでなら叶えてくれるのか。
どこまで愛してくれているのか。
これはフォンダンショコラの愛の証明なのだ。
私はフォンダンショコラに「ショートケーキが食べたいわ」と言った。
フォンダンショコラはたっぷりの生クリームを纏い、チョコレート色の生地を全く見えなくさせた。
私はフォンダンショコラに「それじゃあ貴方はまだフォンダンショコラよ」と言った。
フォンダンショコラは悩んでから、甘い香りの苺を一粒頭に乗せた。
私はフォンダンショコラに「貴方、それでショートケーキなの?どうして私に従わないの?私を愛してくれないの?」と言った。
フォンダンショコラは悩んでから、中身を捨てた。
そして中に新しいショートケーキ用のスポンジを入れた。
フォンダンショコラは完璧なショートケーキになった。
私を愛したフォンダンショコラはもう居ない。