シフォンケーキ
私は紅茶のシフォンケーキに一途な女だ。
シフォンケーキから香る紅茶の香りは、つまらない毎日に幸せな気持ちを与えてくれる。
その日、コーヒーのシフォンケーキを店で見かけて注文したのは気紛れだった。
紅茶のシフォンケーキに飽きたわけじゃないし、紅茶のシフォンケーキがいたなら迷わず紅茶のシフォンケーキを選んだ。
ただ、その日はコーヒーのシフォンケーキしかいなかったから、だからそれを選んだだけだ。
初めて味わうコーヒーのシフォンケーキはいつもとは違う目新しい味わいで、紅茶のシフォンケーキほどではないが私は魅了されてしまった。
私はそれから、紅茶のシフォンケーキの見てない時にひっそりコーヒーのシフォンケーキと浮気を重ねた。
コーヒーのシフォンケーキも紅茶のシフォンケーキも、どちらも「自分だけが選ばれてる」と思ってる愚かさは、私に優越感という気持ちよさを与えた。
週7日のうち、4日は本命の紅茶のシフォンケーキ、3日はコーヒーのシフォンケーキ。
浮気相手のコーヒーのシフォンケーキは週に3日しか食べられないことに何も疑問を抱かないが、紅茶のシフォンケーキは今まで週7日なのが週4日になった事を酷く寂しがった。
仕方がないからコーヒーのシフォンケーキとは別れることにした。
私は一途な女なのだ。
私はまた週7日、紅茶のシフォンケーキを選ぶ日々に戻る。
けれど、紅茶のシフォンケーキは突然居なくなった。原材料の茶葉が無くなったのだ。
せっかく選んであげたのに。
コーヒーのシフォンケーキは、私を嘲笑うかのようにいつものようにそこに居た。