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8話 ルル

「え……? 意味が分からない。君はケイトなの?」


「そうさ、僕はケイトだよ。君の知っている魔女のケイトで、君の知らない男のケイトさ」


「うえぇっ、ケイトなら何でもいいよぉ」


 夜会の時に抱きしめてくれた暖かさが忘れなくて、笑って両手を広げるケイトの胸につい飛び込んでしまった。

 やっぱりケイトに包まれるのは安心する。

 また泣いてしまったが、ケイトから離れることが出来なかった。

 ケイトも私の身体をぎゅっと抱きしめて、背中をさすってくれる。

 暫くぐずぐずと泣き止むまで抱いててくれた。 


 ようやく私が泣き止む頃には、目が腫れて熱を持っていた。

 さっき寝ていたのにまた眠気が襲って来て、必死に抗っているとケイトが私に尋ねてきた。


「ねぇ、君の名前はなんて言うんだい? 君はもうアマンダではないんだ、新しい名前を僕に教えてくれよ」


 え……、どうしよう? 


 この子の名前と言えば、《イーリスの人形姫》や《お人形のルル》としか呼ばれたことがない。

 あの男が言っていたルルがこの子の名前なのだろうか?


「ル、ルル? かな」


「ルルか。可愛い君にぴったりの名前だね」


 ケイトの言葉に衝撃を受けた。


 ケイトに可愛いと言われた。

 ルルって名前で本当にいいのか? 

 今ならまだ変更がきくかもしれない。 

 でもいい名前が思いつかなくて、結局名前を変更する言葉は出てこなかった。




 ケイトの可愛い発言で、眠気も吹き飛んでしまった。

 すると冷静になって、今までケイトの前で泣いたこと、抱き着いたことが急に恥ずかしくなってきた。

 アマンダの時にこんなことは絶対しなかった。

 

 ケイトの胸を押して腕を外すと、じりじりと後退して距離を取る。

 ケイトの顔は見れず、傍らにあった毛布を手繰り寄せて被った。


「ル、ルル? どうしたの? 僕、不味いことしたかな!?」


「ち、違う…、急に恥ずかしくなっただけ」


「え! ああ…。そんな気にしなくてもいいんだよ。今のルルは小さな女の子なんだから」


 ケイトが毛布の上から背中をさすってくれたけど、恥ずかしさは消えなかった。

 自分の顔が真っ赤になっているのが分かる。

 両手で顔を隠して必死に動揺した心を鎮めようとしたけど、今までの出来事を思い出しては羞恥と幼稚さが目についてしまう。

 

 本当に私は何やってたんだ! アマンダの記憶があったというのに、年相応な行動や言動しかしていないじゃないか!!


 多くの事が起こり過ぎて、心の中がぐちゃぐちゃで整理できない。

 いや、本当はアマンダの記憶が戻ってから、ずっとフワフワとしていたのだ。

 

 私はアマンダでルルでもある。

 小さな女の子になってしまったが、大きかった大女だった時の記憶が忘れられない。

 でも今の身体は小さくて華奢で弱い。


 それが認められなくて、ずっと違和感と困惑を感じていた。

 今も違和感が消えたわけではない。

 むしろアマンダの思い出が一杯あるこの場所だと、さらに悪化した気がする。


 まだこの子の心の整理はついていないけど、とりあえず一安心できる場所に辿り着いた。

 それだけで今は良かった。


 背中をさすってくれるケイトの手は優しい。

 ここに連れて来てくれたマスターの頼もしさに甘えてる。


 今は彼らの助力に甘えよう。

 この子には助けが必要だったのだ。




 しばらく毛布に包まりながら動悸が静まるのを待った。

 その間、ケイトは黙って背中をさすっていてくれた。

 やっと私が落ち着いてそろそろと毛布から顔を出すと、ケイトは何でもないかのようにギルドの皆にも挨拶しようと言ってきた。 

 ケイトのその無神経な切り替えの早さに、呆れながら懐かしさを感じた。


 ケイトに手を引かれてアマンダの部屋を出ると、古くなっていたが懐かしいギルドの風景が変わらず残っていた。

 人と会うのは久しぶりで、馴染み深いギルドの中なのに緊張して、ケイトの腕にしがみ付いて背中に隠れていた。


 顔を合わせた人はどれもアマンダと会ったことのある古参のギルド員だった。

 私は口も聞かないでケイトの背中に隠れていたけれど、ケイトは構わずルルの名前と顔見せを済ませてしまう。

 ギルド員も気楽に答えて、自己紹介してくる。


 彼らも私がアマンダの記憶を持っていることを知っているのだろうか?


 アマンダと親しかった人は、前と変わらずからかって来るし私の扱いに慣れていた。

 ギルド員に挨拶し終わると、マスターのいる部屋についた。


 この人は本当に変わらない。姿も部屋も変わらなくて今私が誰なのか分からなくなる。


「挨拶は終わったかね」


「はい、皆ルルの事を可愛いと言ってましたよ!」


「本人は不本意そうだがね。まあいい、二人は暫くはギルドに待機。

 うちもでかい仕事が終わって余裕があるからゆっくり休息だね」


 もうすでに、私はギルドの一員に入っているようだ。

 説明がない状況でもやっとするが、マスターは反論を許してくれそうにないので口にしなかった。

 

 私は助かった。

 この子を守れて、()()()ではなくなった。

 安心できる懐かしい場所に戻って来ることが出来た。

 夢見たケイトとも会うことが出来た。


 凍えるような孤独と悪寒に包まれた世界から抜け出して、暖かい場所に連れ出してくれた。

 これからはギルドで、またケイトと一緒に暮らすことが出来る。

 

 まだこの幼い身体に戸惑うことは多い。

 慣れない身体と、変わってしまった人生。


 アマンダの記憶は、《イーリスの人形姫》を変えてしまった。

 何もできないお人形が、抵抗して戦う意志を持った。

 アマンダの記憶という遺志は、今後私を助けもするが苦しめもするだろう。

 それでも記憶を無くして、元のお人形になりたいとは思わない。

 

 私もまたケイトと一緒なら大丈夫だと信じている。

 







短いですが一区切りついたのでここで終了します。

気が向いたら続きを書くかもしれません。

読んでいただきありがとうございました!!

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