7話 ケイト
「え……?」
マスターの話を聞いても訳が分からなかった。
一番分からないことは私の事だ。
「なんで私がアマンダだって分かったんですか?」
「うーん、それは私からも説明しづらいから本人から聞いてくれ」
そう言って、マスターも困惑顔をして席を立つと部屋から出ていった。
変わって入って来たのは、私を助けた少年だった。
びくっとつい驚いてしまった。
だって……、そんなことあるはず無いのに。
少年はまた能天気に笑って、無遠慮に椅子に座ると気まずそうにして話し始めた。
うーん、まずは自己紹介からしよう。
僕の名前はケイト。
…ビックリしたでしょう。
僕は嬉しかったな。またアマンダに同じ名前で呼んでもらえると思っていたから。
でも、魔女でも女でもないよ。
正真正銘の男だ。
そして僕も君と同じで前世の記憶を覚えている。
かつてこのギルドでアマンダと組んでいた魔女のケイトの記憶さ。
魔女のケイトは誰にも言っていない呼び名があったのさ。
占い師の祖母から付けられた呼び名は《転生の魔女》だった。
祖母はケイトに言っていた。
『あんたは一度だけ、記憶を持ち込んで生まれ変わることが出来る。またあんたが大切に思う人と巡り合うことで出来る不思議な魔法だよ。
だが気を付けないといけない。
この魔法をみだりに他の人に言ってはいけないよ。
下手に拗らせるとこの魔法は人を不幸にする。
慎重に、よく考えて魔法を使うんだよ』
でも魔女のケイトは楽天的に考えていた。
もう一度生き変えるなんてラッキー! ちょっと無理しても大丈夫だねって。
後はアマンダと出会ったケイトと変わらない。
ギルドに入って、アマンダと組んで仕事をするのは楽しかった。
アマンダは何か放っておけなかったんだよね。
魔女を排斥する団体に捕まった時は、流石にヘマしたと思った。
小さい頃から母や祖母には常々言われていたんだ。
完全にあれは油断していたケイトの落ち度だよ。
だから君が泣きそうにならないで。
ケイトの最後は悲惨だったけど、あまり気にしていないよ。
マスターに聞いたら、きっちりギルドの皆が落とし前を付けてくれたって言うし、アマンダのあだ名に《鮮血のアマンダ》とか《赤のアマンダ》とか付いたと聞いて逆に心配になっちゃった。
それよりは何も言わないでアマンダと死別しちゃったことが不味かった。
生まれ変わってもすぐに会いに行ける距離じゃなかったし、アマンダはケイトが生まれ変わるなんて知らないから待ってくれないと思った。
君が10年以上もケイトのことを忘れなかったて聞いたときは泣いたよ。
《転生の魔女》の罰が当たったと思った。
でもねぇ、まだまだだったんだ。こんな軽いモノじゃなかった。《転生の魔法》は本当に恐ろしい魔法だった。
僕は魔女のケイトから生まれ変わって、ただの男のケイトになった。
すぐにアマンダの所に行きたかったけど、中々会いに行くことは出来なかった。
やっとこのギルドに辿り着いた時には、15歳になっていた。
ごめんね、遅すぎるよね。
マスターに会って、アマンダの死を知った時には死のうかと思った。
ずっとアマンダは待っていてくれたのに僕は間に合わなかった。
でもマスターは絶望する僕を殴って、簡単に諦めるなと言ったんだ。
アマンダはずっとケイトを忘れなかった。
なら僕もアマンダを忘れずに探し出そう。
《転生の魔法》は大切な人に巡り合う。
だから、アマンダの生まれ変わりが魔女のケイトのことを忘れていても、男のケイトが探しだそうと誓ったんだ。
すぐにアマンダを探し出そうとしたけど、マスターに止められた。
まずはギルドで鍛えて一人前になってからアマンダを探せってさ。
男になって魔術の素養は減ってしまった。
僕は剣を鍛えていたけど、アマンダのような才能は無かったよ。
ギルドに入って、マスターに鍛えてもらった。
ギルドに入ってから一年経たないくらいからな。
やっとギルドの初仕事を貰ったんだ。
それが他国の貴族の夜会の取引現場を押さえること。
人数が必要な割に危険性は低い仕事だった。
夜会の会場に行ってすぐに分かった。
アマンダがいるって。
何で分かったのかは説明できない。それが《魔法》ってモノなのさ。
現場の持ち場を離れてアマンダを探していると、机の下が妙に気になった。
テーブルクロスを捲って見回すと、小さな君がいたんだよ。
すぐにアマンダの生まれ変わりだって分かった。
後は捕獲してギルドに連れ帰って今ここにいる。
はい、説明終わり。