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6話 マスター

 私が目覚めると元の部屋にいた。


 でも恐怖と孤独に彩られた、貴族の部屋ではない。


 懐かしくて安心する質素で狭い、アマンダが暮らしていたギルドの部屋だ。




 最初は訳が分からなかった。

 あまりにもアマンダの夢を見過ぎたのかと思った。

 でもやっぱり私は、かつてアマンダが暮らしていた部屋に寝ていた。


 この部屋の狭さの割に大きなベットは、アマンダの長身のせいで特注した物だ。

 隅に置いてあるタンスもケイトと一緒に買いに行った物。

 窓辺に置いてある花瓶はケイトが勝手に置いていった特徴的で変な形。


 他の場所で見るはずがない。

 一つ一つに思い出があって、唯一の物だった。


 これは絶望した私が夢見た妄想ではないよな?

 もう一度目が覚めたら、あの孤独な部屋に繋がれているわけではないよね。


 ずっと首にあった首輪の重みが無くなって、スース―する首を触って確認する。

 片腕には包帯が巻かれて腕の痛みは消えていた。


 現実のことなのに夢の様で。

 夢に見過ぎて、現実に思えない。


 混乱している私にお構いなく新たな人物が現れた。


 扉を開いて現れたのは、アマンダの時にお世話になったギルドのマスターだった。


「マ、マ、マスター!?」


「……応、久しいの、今の子では初めましてだな。

 お前が混乱するのも分かる。一から説明してやるから大人しく聞いておけ」


 そう言ってマスターはベットの隅にあった椅子に座って、煙管をゆっくりと吹かしながら私に語った。







 まず何から話すべきかな。

 アマンダが死んでからでいいか。


 アマンダが王女の盾になって死んだ後、王女は助かった。


 ああ、お前は知らないで死んだんだね。


 王女はお前を相当気に入っていたようだよ。お前を殺した一味がどうしても許せなかったらしい。

 王女は持てる権力を使って加担した奴らを見つけ出すと、奴らを一掃してしまった。


 一掃された貴族は相当民衆に嫌われていたようだ。

 悪徳貴族を倒した王女として大層民衆に好意的な扱われて、王女は民衆の人気者になった。


 民衆の人気者になった王女はアマンダの事を忘れたくなかったようだ。

 お前のことを詩や歌や劇にして民衆に広めてしまった。

 アマンダは王女を身を挺して救った英雄として名が残っているよ。


 立派なことだねぇ。

 えっ? 困るって。

 私の知ったこっちゃないね。死人に口なしさ。死んだなら大人しく聞いときな。

 あんな死に方をしたお前が悪いのさ。


 とにかく、アマンダは死んじまってうちのギルドは稼ぎ頭を失って損するばかりさ。

 それでも相変わらず細々と仕事を請けて、ギルドとしてやって来たのさ。

 

 そして最近、また国から依頼が来た。

 他国の貴族の間で流行している悪い薬がこの国にも入って来て困っている。

 どうにか悪い薬がこの国に来ないように、悪い薬の取引場所である他国の夜会を潰して欲しい。

 他国であるから、この国の兵士が出向くのは何かと不味いが、雇った傭兵なら問題ないだろう。

 

 そう言ったわけで他国の軍の兵士と合同で、悪い薬の取引会場である夜会を襲撃して、悪い薬の取引現場を押さえる綿密な計画を立てたわけさ。


 計画は順調だった。

 他国もこの国の貴族も私たちの動きに気付かないで、大規模な夜会を襲撃することができた。

 悪い薬の取引現場も押さえて、ギルドが受けた依頼は無事に達成された。


 やれやれとうちのギルド員も安心していた所に、仲間が一人いないことに気付いた。

 最近は入ったばかりの若い男の子だ。

 まだ現場は早すぎたかと心配している中、そいつは一人の女の子を抱いて戻ってきたわけだ。

 

 見るからにその子は貴族に買われた所有物だった。

 私たちは薬の取引現場を押さえに来ただけで、貴族の所有物を勝手に盗むことは出来ない。

 私は少年にその子を元の場所に戻して来いと言ったが、あいつは言うことを聞かなかった。

 その子を抱きかかえて決して離さない。

 あいつは私に言ったんだ。


『この子はあの人です。やっと会えたのに手放すなんてありえない』


 私はもうびっくりしたね。

 あんな大女がこんなちっちゃな女の子になるなんて思いもしなかった。


 それからは速かった。

 あんたを貴族や軍からも隠して、ここまで連れ去ったのさ。


 あんたは貴族の所有物だった。

 普通だったら私たち平民のギルドが介入できる余地はなかった。

 でも他国に連れ出しちまった事、王女の口利きを通してもらったことで問題ないだろう。

 

 あんたはうちのギルドで引き取ったんだ。

 またうちで働いてもらうよ。

 まあ……、働ける年になるまではあいつに肩代わりしてもらうからゆっくりして行きな。

 

 






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