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2話 アマンダ

 私の名前はアマンダ。

 しがない平民の女だ。


 昔から身体が大きくて、力が強くて男勝りな性格だった。

 男の子たちにも負けずに売られた喧嘩を買っていたら、いつの間にか歯向かう男の子たちはいなくなっていた。

 そのまま力自慢を武器に傭兵という荒い仕事をするようになっていた。


 剣を武器に男達に負けない働きをしていたと思う。

 傭兵が集まる組織のギルドに入っても女だからということで戦いを避けることはしなかった。

 積極的に戦いに身を投じてギルドに貢献していたと思う。





 でも女という性がなくなるわけじゃない。


 当時私とよく一緒に組んでいたバディはケイトという魔女だった。

 若いながらに魔術に精通していたケイトと剣を使った肉弾戦が得意だった私はいいコンビだった。

 

 ケイトは気さくで楽観的でよく笑う子だったけど、後先考えないで行動することがあって死にかけることが何度もあった。

 反対に私は肉体派の脳筋なのに無口な慎重派であった。


 ぐずぐずと考えて行動できない私をケイトが引っ張って、命の危機に瀕したケイトを私が剣で敵を倒して守ってきた。

 何だかんだでいいコンビだったと思う。

 私はケイトを守れたらそれで良かった。彼女の笑顔を見て、一緒にいるだけで私は心穏やかに幸せを噛みしめて生きていることが出来た。


 しかしある時、ケイトが魔女というだけで忌み嫌っていた団体に捕まり嬲り殺された。

 女の魔術師というだけで殺されたのだ。

 女としての尊厳を汚されて死んでいたケイトの遺体を見た時、私は目の前が真っ赤になった。


 ケイトを殺した団体には私とギルドの仲間が念入りに殺して回ったが、それでもケイトの無念が消えるとは思えなかった。


 そしてケイトを守れなかった自分を一番許せなかった。


 ケイトを守ると自分に誓っていたアマンダは、誓いが守れなかった時にケイトと一緒に死んだのだ。

 後に残ったのは燃えカスのようなクズでどうしようもない亡霊の女だけだった。




『アマンダ、私たちずっと一緒にいましょう。その方が楽しいし嬉しいわ。たとえ私にどんなことがあっても必ずあなたの元に帰るわ。だからアマンダは待っていて』


『じゃあ、私は必ずケイトを守ると剣に誓おう。私にあるのはこの肉体と剣のみだ。全霊でもってケイトといるよう努力する』


『もうっ、私を守らなくてもいいのよ。ただ一緒にいてくれるだけで私は幸せだわ』


『そうは言うが、ケイトは危なっかしいからなぁ』




 ケイトとの思い出を胸に無駄に10年間生きてしまった。

 ケイトがいなくなった後の私は酷い有様だったが、ギルドのマスターや仲間が中々私を一人にしてくれなくて、仕事をしていくうちに月日が経ってしまっていた。


 剣の腕もギルドでの名声もそこそこ手に入れていたが、そんな物が欲しかった訳じゃない。

 いつまでも忘れられない思い出に縋っている馬鹿な女がいるだけだ。




 ある時、ギルドマスターに呼ばれて依頼を頼まれた。

 それはこの国の王女を護衛する名誉で重要な仕事だった。

 長年のギルドでの働きが評価されたことと、私が女だったことで依頼が舞い込んできたようだ。

 

 私は正直気乗りしなかった。

 この国の最高権力者に連なる者の護衛など、私は請け負うに値しないと思ったのだ。

 しかしマスターは強引に勧めてきて、恩のある私は断れなかった。


 しぶしぶ王女の護衛を引き受けた。


 王女は可憐で可愛くてわがままな女の子だった。

 大人たちに傅かれても立派に凛と立ち、臣下を率いている。

 しかし年相応に可愛らしい時、我儘な時もあったがそれが一層王女を人間味溢れる人柄にしていた。


 私が王女の護衛になってから、何故か王女は私のことを気に入り良く側に侍るようになった。

 私は特に王女に気に入られようとしたり、会話や媚を売った覚えはなかった。

 護衛役に徹している私に王女が一方的に話しかけてくるのだ。私は王女の話を聞くことしかしなかった。

 

 王女の周りは華やかで煌びやかな場所だったが、王宮という場所は陰謀渦巻く伏魔殿であった。

 王女や私のあずかり知れない場所では駆け引きが繰り返されていたのだろう。

 王女の身に危険が降りかかった時にはすでに手遅れだった。


 王宮深くの限られた人した来れないはずの場所にいた王女だったが、誰かが差し向けた刺客が襲い掛かってきた。

 中には王女の臣下の者もいた。誰が敵で味方なのか分からない状況で私が守るべき者はただ一人だった。

 王女を守るために剣を片手に襲い掛かってくる者全てと戦った。

 

 全てを倒しきったと思った時、最後の刺客が王女の側にいた。

 倒すことは出来ない。しかしこの身を犠牲にすれば王女は守られる。

 

 私は王女の盾となって刺客の短剣に刺された。

 刺された短剣をそのままに刺客を切り伏せると、やっと全ての敵はいなくなった。

 

 驚愕で固まっている王女が目に入ったが、背後にはすでに臣下の者たちが駆けつけて来ている。

 王女を守りきれたことにほっと安堵した途端、力が抜けて倒れてしまった。


 短剣には毒が塗ってあるだろう、私は助からない。

 

 こんな終わり方をするとは思わなかった。

 もっと惨めで戦場の片隅で誰にも知られずに死ぬと思っていた。

 守って死ねることは少しは心残りが軽くなった気がした。


 死んだらケイトに会えるだろうか。

 会ったら私は彼女に何て言おう?

 怒るか、謝るか、泣くか。

 もう一度、彼女の笑った顔が見たかった。







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