1話 お人形
薄暗い照明、室内に漂う煙草の煙、酒の入ったグラスを片手に質の良い煌びやかな服を纏い、顔には仮面をつけて決して素性が分からない人々が集う秘密の会合。
私は慣れない煙草の臭いにくらくらしながらお行儀よく椅子に座っている。
そうお人形みたいに綺麗な服を着て、首輪に繋がれたリードを隣に座っている男が持っている。
周りに人が集って談笑しながら好奇な目で鑑賞物を見ているのだ。
隣に座る男は自慢げに所有しているお人形を見せびらかしている。
「まあまあ、綺麗な子ですね」
「ええ、自慢の子ですよ。波打つ白い長髪に七色に色が変わる瞳、幼い可愛らしい容姿はまさに高価な人形のようでしょう」
「本当にそうですな! いつ見ていても色を変える瞳は見ていて飽きないですな」
隣の男が私の頭を撫でると、嫌悪と悪寒で手を振りほどきたくなるが、我慢して動かない。
男のなすがままに撫でられていると、小太りの男が近づいてきた小声で隣の男に交渉している。
「しかし、可愛らしい。どうです私にこれぐらいで売っていただけませんか?」
「いやいや、実は他にもお声を掛けていただいているのです。その中には結構な額を提示された方もいらっしゃるのですよ」
「むむ! そうですか。しかし私も負ける気はありませんので、もしその時になりましたらお声かけ下さい」
「もちろん、その時はお話しましょう」
そう言って男たちの話は終わった。
小太りの男は私を舐めまわすように見つめてニタニタと笑っていたが、暫くすると席を外して別の場所へと歩いて行った。
そんな会話が数回繰り返されても私に許されているのは拳を握りしめてじっと耐えることだけ。
ひどく屈辱的で冒涜的な扱いを受けているというのに、この幼い身体では抵抗することも出来ない。
戦うことも逃げることも出来ない絶望的な状況で、目の前が真っ暗になる。
力が欲しい、屈強な大きな体が欲しい、男に負けない腕力が欲しい。
なんと今の身体の華奢で貧弱で弱いことか!
今の現状が酷く惨めで遣る瀬無かった。
今の私が目覚めたのは高級な室内でのことだった。
気がついたら椅子に座っていたのだ。
(えっ、あれ!? 何で私は生きているのだ?)
椅子から広い室内を見ると、高級な家具が並び、大きな天幕付きのベットや鏡台が見えた。
鏡台の鏡を覗くと、そこには可愛らしい等身大の人形が写っていた。
椅子に座っている人形は白い長髪が波打ち、高級なフリフリの服を着ている。特に印象的なのが丸い顔に大きな瞳が七色に輝いていることだ。
光の反射のせいなのか、不思議と瞳の色が移り変わっていく様は見ていて飽きない。
そこではっと気づいて手を挙げると、鏡の中の人形も手を挙げた。
見る見るうちに顔が青ざめていくのが分かった。
今の私はこのお人形なのだ。
可愛らしい幼い人形のような少女になっていたことにようやく気付いて青褪めながら混乱と動揺で心がかき乱された。
だって私の知っている身体はこんなに小さくも幼くも弱くもなかった。
そして私は死んだはずだ。