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005

「……まぁ、そんな怖い顔して突っ立ってないでさ、適当に座ってよ」



 警戒心むき出しではあるが、それでも教会に入ってきてくれた彼らに、出来るだけ愛想よく見えるように笑みを浮かべてそう促す。

 けれども入り口付近でお互いに少し距離は取ったが、そこから動こうとしない。

長くなるかもしれないからという気遣いのつもりだったのだが、どうやら受け入れては貰えないらしいと察して、苦笑いを浮かべた。

 鋭すぎる視線と雰囲気が、ピリピリと肌を刺して痛い。



「で?」



 短い言葉だけで、先を促してきたのは俺が“ギルバート”と唱えた黒髪の少年だ。

 入口の一番近くを陣取った彼は、腕を組んでこちらを睨みつけてくる。



「てめェも“転生者”だってことはわかってんだ、勿体ぶってねェでさっさと吐きやがれ」



 続いて威嚇するように、“ザックスラルド”と唱えた赤毛の少年が低く唸る。

 両手をポケットに突っ込みメンチを切ってくる様子に、コンビニの前とかで見かけたヤンキーを思い出した。

まあ、正直いくら子供だと言えど、俺としてはこっちの方が数倍怖いけども。


 それにしても、さすがだなぁ。

たったあれだけの言葉で俺だけでなく、お互いが転生者であるということにも気づいたらしい。

 探り合うように動く視線がお互いを油断なく見定めているけど、どこか腑に落ちなさそうな雰囲気も漂っている。


 恐らく、それぞれが只者じゃない雰囲気を感じ取っているというのに、面識がまったくないことをいぶかしんでいるのだろう。

 そりゃそうだよね、3人ともラスボスとして君臨した程の実力を持った人たちだ。

 上り詰める過程で自身と同じ野望を持つ者たちを、彼らは蹴落としてきたのだから。

競り合う者としてまだぶつかっていなくとも、せめて名前と顔くらいは知っていなきゃ可笑しいとでも思っているのだろう。

 少年たちの様子を見ながら彼らの内心を探っていると、俺を睨む視線に探るような色と微かな困惑の色があることに気づき、首を傾げる。


 なんだろ?

 俺も転生者だってことはすでに気付かれているわけだし、そりゃ彼ら自身がお互いを警戒するのはわかるけど、俺みたいな弱っちいのにそんな顔する必要なくない?

なんて疑問に思っていると、「ねぇ」と声をかけられたので、声の主“ロシュフォール”を見やる。



「キミ、ボクを知ってるんだよねぇ?」



 その問いかけは、静かで落ち着いたものであったというのに、喉にナイフを当てられたかのような感覚に陥った。

 実際には彼は入口から動いていないし、血濡れのナイフは未だに彼の手にあるというのに。

 嘘偽りを許さないと言外に告げてくるガラス玉のようなオッドアイに、どろりと何かが混ざったような気がして、心臓が嫌な音を立てた。

やめて。だれか彼の瞳にハイライトを入れてあげて……!


 背筋が凍り、冷や汗が滲んできて、口の中がカラカラに乾いていく。

どうやら俺の呪文は“影を踏む”ことには成功したようだが、彼の機嫌をすこぶる損ねてしまったらしい。

これまでビスクドールのような能面だった顔には歪な笑みが張り付いていて、形だけは笑顔だというのに機嫌の悪さを主張してくるというギャップ。


 赤と金のオッドアイの瞳孔がめっちゃ開いててマジで怖い……!

今にでも彼の足元が怪しげな光を放ち、禍々しさをまとった“何か”が這い出てきそうで、無意識に唾を飲み込もうとして、むせそうになった。

そうだ、今口ん中カラカラだった……


 俺の左腕にくっついているシャルが抱きしめる腕に力を込めたのがわかり、意識的に深呼吸をして無理やり呼吸を取り戻す。

激しく主張してくる鼓動のせいで、まるで心臓が頭の中に移動してきたかのような感覚が、微々たるものであるが多少は楽になった。

 逃げることを許されなかった視線を合わせたまま、意識して目尻を下げ口角を上げる。

それを見たオッドアイがほんの少し、細められた。



「知ってるよ」

「じゃあさぁ、なぁんで怖がらないのぉ?」



 震えそうになる声で返事を返せば、間を置かず次の質問が飛んできた。

 彼、ロシュフォールのその言葉に、ギルバートもザックスラルドも「そうだ、それだ」と言わんばかりの顔で俺を見てくる。

そんな彼らに俺は一人脳内で「ああ、なるほど」と納得した。

先ほどの少しの戸惑いを含んだ視線はそういうことだったのだろう。


 気付いてしまえば、何だかその厳つい顔に、文字が浮かんで見えるような気がしてきて場違いにも笑ってしまいそうになる。



 “俺“を知っているのになんだこの態度。

しかもデカい面してるわりに、どう見ても雑魚なんだが……?



 というのが、困惑の原因らしい。

内心でそりゃ俺だってめちゃくちゃビビってるよと彼らに同意した。

 でもそれをあからさまに表に出せば今こうして彼らと会話することなど不可能だったのだから、そりゃ必死に虚勢を張り続けるしかないよねと脳裏でぐちる。



「そう見えないのかもしれないけど、これでも十分怖いよ。

 なんせ前世の君たちがどれだけ凄かったかを“知っている”んだからね」



 ロシュフォールの質問への答えは簡単だった。

 嘘でも誤魔化しでもない、事実だけを正直に告げる。

すると少年たちはどことなく満足そうに口角を上げた。

 ……うん、別に媚を打ったつもりもないし、実際にそう思ってることを告げただけだけど、さりげなく褒めたのがよかったのかな。

 前世では残酷非道のラスボスだったとはいえど、攻め方を工夫すれば案外チョロいのかもしれない……?

なんてバレれば即死を迎えそうなことを考えながら、じっとこちらを見つめ俺の言葉の続きを待っているラスボスたちを見てそんなことを思う。



「でも君たちにとって不十分に思えるなら、それは――まだ何かされたわけじゃないから、かな」

「は?」

「だから怖がるのは、実際に何かされてからにしようと思って」



 正直睨まれたり殺気を向けられれば、本能で感じ取る恐怖に息を詰めるアルドやシャルよりも“知っている”ぶん俺の方が怖い思いをしていると思う。

けれどそれを言い出せば、終わってしまうことがわかるから。

 せっかくのこの奇跡的な出会いを、無駄にしてしまうのはもったいないし。

一か八かの賭けであることに違いはないけど、足し算になればいいと思っていた計算式が、まさかの掛け算でやってくるんだもん。

しかも、逃がせば0に戻るだけで済まずに、マイナスになることが必須の負のおまけつきで。



「君たち相手に怯えない方が無理があると思うけど、まぁ俺もすでに一回死んでるんでね。

 ちょっとそのへん妙に図太くなってるところはあると思う。

 でもさ、せっかくの二度目の人生だよ?“ボーナスステージ”みたいなものじゃん? 

 なら、楽しまなきゃ損でしょ。超ハイリスクなのはこれでも十分承知してる。

 でもそれ以上にこの出会いのミラクルさを“知ってる”だけに、

 ただビビッてこのチャンスを逃がすのはつまんないと思ってね」


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