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―― ラ ス ボ ス じ ゃ ん !?!?
と、気付いたときの心情と言ったら、あれだ、ピシャーーァアン!! っていう効果音がピッタリだったと思うわ。
そう、まるで雷に打たれでもしたかのような衝撃だった。言葉にすると何だかコミックっぽくなるけど、それほど凄まじい衝撃に襲われて、完全にフリーズする。
だっていくら自分が体験していて、もしかしたら“そういう”展開もあるかも?とか、一人くらい俺と同じ境遇の子がいたら助かるんだけどなぁ、とかは、そりゃ思いはしたよ? でも、流石にそんなうまい話があるわけないって、思うじゃん?
だから普通に、各町でちょっとした騒ぎになっている悪ガキたちを呼び出しただけのつもりだったんだけど。
確率論的にもめちゃくちゃ低かったはずなのに、3人が3人とも前世の職業が“ラスボス”ってね……ねぇこれなんて奇跡?
ああ、駄目だ。なんかとんでもない超激レアキャラが3人も目の前にいるという現実は、必死に飲み込もうとしても、つっかえてしまってどうしようもない。
ぶっちゃけ今も軽く現実逃避気味っていうか……いや、うん、えぇぇええ? まぁああじぃいいでぇぇええ?? っていう感覚が、必死こいて考えている後ろでリピートしている。
ベタな悪あがきをしようと思って、頬に右手を持っていく。
むぎゅう。
予想以上に力がこもったのは、夢であって欲しいという気持ちの表れだったかもしれない。
めっちゃ痛かった。二重の意味で涙目になる。
わかっていたことではあるけど、これ、マジで夢じゃないんだぁ…………ぅわぁあああああああ…………!?!? マジでかつての推したちが目の前でしゃべってるぅ……!? 動いてるぅ……!?
あぁ、駄目だこれ。めまいがしそう。
だってあれだよ?
転生者ってだけでも激レアなはずなのに、それが3人、いや俺を合わせるとここに4人も揃ってるんだよ?その上俺以外が前世でラスボスとして君臨していた文字通りの最強キャラ……
え、なにこれ一回目でまさかの“神当たり”引いた感じ……? いやもうマジでリセマラ不要の超神当たりじゃん?
だって超火力の前衛、バランスのいい後衛に加えて一応回復も出来る魔術師の、タイプ別のラスボス×3だよ?
このまま最終ステージまでガンガン行けちゃう感じじゃん??
……ん? いや、待てよ、こいつらが最終ステージで待ち構えてる側のキャラだったわ。一緒に連れて行くことになると……え、どうなんの?
そこはやっぱ新しいボスキャラが出てくんの??? うっわ、めっちゃ楽しみ! って、駄目だこれ。
今考えたって絶対に答え出ないやつだわ、楽しいけど。とりあえず脇に置いとこ。
もし、マジで新しいボスキャラが出てきたら、そのときに考えよう……正直、どんなキャラが出て来ても負ける気しないけど。
……まあ、ちゃんと彼らを仲間に出来れば、って話になるわけだけどね。
神引きはしたけど、残念ながらそのまま仲間になってくれるゲームではないので、ここからちゃんと“捕まえなきゃ”いけないんだよね。
予想外の展開過ぎてマジでビビったけど、というか今もまだ飲み込めなさ過ぎてビビってる状態だけど、折角出会えた伝説モンスターのアナザーカラー×3みたいな彼らを逃がすわけにはいかない。
……というか、そもそも、まず彼らに前世の記憶はあるのかな?
ここかなり重要だよね。
もし、記憶がなくても思い出す可能性があるので、逃がすわけにはいかないのだけど。
記憶がないのなら、まだ子供だし上手く言いくるめられそうだけど、記憶があるのなら……正直、今の俺が持っているカードじゃ到底勝てないどころか、HPを削るにも状態異常に持っていくにも無茶がありすぎるけど、“影を踏む”ことくらいは出来る、と思う。たぶん。
その後は何でもいいから、彼らが納得する条件を差し出して完全には仲間に出来なくても、とりあえず連れて帰ろう。
んで、必死こいて”仲良し度”を上げる。“紫色の球”を持ってない俺にはこれしか手段が思いつかない。
ラスボスたちを眺めつつ考えていたせいで、いつの間にか脳内がゲーム感覚になっていて、自分のテンパり具合がよくわかった。
……よし、どっちにしろ、とにかく連れて帰る。そうしよう。
そう決意が固まったところで、意識を随分と幼くなったラスボスたちに戻した。
どうやら俺がパニックに陥っている間に始まっていた勧誘は難航しているらしい。
ラスボスたちの警戒心と不信感が明け透けすぎて、丁寧な態度で話しかけている紳士がなんだか不憫に見えてきた。
打ち合わせ通りの素晴らしい勧誘なのだけど、いかんせん相手が悪すぎる……
彼の足元にいる少女なんかはもう完全に怯えてしまっていて、彼の足に引っ付いている。
「一緒に行く!」って言って聞かなかったから連れてきたけど、泣かれてでもお留守番させるべきだったわ……
無駄にトラウマを作ってしまって本当に申し訳ない。
流石にラスボス×3(子供バージョンだけど)が出て来るとは思ってなかった、なんて言い訳が通るかどうかはわかんないけど……でも、これだけは言わせてほしい。
まさか話を聞きながら、いそいそとウサギを解体しだす奴が来るとは、ほんっとに心の底から、誓って! 思ってもみなかったんだよ……!!
多分だけど、あの天使みたいな見かけをした血濡れの少年がいなければ彼女はここまで怯えなかったと思う。
他の2人も怖いけど、彼の怖さはなんというか……ベクトルっていうか、種類が違うよね…………
元々が割と気の強い子だからこそ、現状がとても居た堪れないんだけど……
前世で見たドラマや映画、あと医療系の漫画とかゾンビゲームとかで幾分耐性があったであろう、俺だってめちゃくちゃ怖いってかグロすぎて直視できないし、正直泣きたいくらいだ。
……流石に6,7歳でウサギの解体とか普通できないよね?? これもう、あの子に関しては完全に記憶あるんじゃね? と、思うんだけど、この世界事情を考えると、絶対にできないとは言い切れないのが何とも歯痒い……!!
っていうか、あっちの2人も完全に見て見ぬふりをしてるよね? 完全に引いた顔しつつも絶対に視線をそっちに向けないもんね。
なんなの、気にしたら負けだとでも思ってる?? あの子に対抗できるの、君たちしかいないんですけど。
なんて考えつつ、予想以上に反応の悪い少年たちの気を引こうと頑張ってくれている紳士には、後でめちゃくちゃ謝ろうと思います。
ごめんね”球”も投げず、援護もせずにひたすら“甘える”みたいな技だけ出させてて……
しかも、相手が悪すぎて“甘える”なのに向こうの攻撃力を上げてる感じにさせちゃってて、本当に申し訳ない。
眼光がね、鋭すぎるよね。まとっている雰囲気が物騒過ぎて、防御力どころか精神力もガンガン削られていくわ……
「んな上っ面な話はどうでもいい。さっさと本題に入れ」
脳内で紳士に謝罪しつつ、記憶持ちなのかを見極めるために観察を続けていると、提示された好条件をどうでもいいと切り捨て、黒髪の少年がギロリとこちらを睨んできた。
子供らしからぬ鋭すぎる睨みに、吐き捨てるような舌打ち。ガラが悪すぎんだろ。
折角の整った顔を悪い方向で活かしすぎてる上にマジで様になってて、逆に草が生えるわ。
なんてふざけたことを考えつつも、子供の姿だというのに迫力がありすぎて心臓がヒュってなった。
黒髪の少年の言葉に赤毛の少年も同意のようで、ドラマでよく見かけるチンピラみたいにガンを飛ばし、顎で続きを促してくる。
それを受けた紳士は、少年たちの要望に困惑しているようだ。
「入るも何も、私は先ほどから本題を話している。
君たちの生活を保障するかわりに、私に力を貸してほしい。
……この国の現状は君たちも知っているだろう?
例え少しずつでも改善していくには、君たちのように賢く力のある者の協力が必要なのだ」
そう、そもそも既に本題に入っていたのだから彼の反応はもっともだった。
俺たちの目的は呼び出した“彼らを仲間にする”こと。
そして紳士は俺がひとりパニくりながら考えごとをしている間、ずっと丁寧に彼らを勧誘していた。
だというのに、黒髪の少年のお気には召さなかったらしい。
鋭い舌打ちが再び響き、ただでさえあまり良くない風向きが更にきつくなったのを産毛が逆立つ肌で感じた。