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001

 突然ですが、あなたは”前世”という言葉を聞いてどう思うでしょうか。


 馬鹿馬鹿しいと鼻で笑う?

 オカルトじみていて気持ち悪いと思う?

 それとも、もしかして信じているタイプ?


 俺はというと、全く信じていないタイプだった。あ、別に信じている人を悪く言うつもりは微塵もないよ? 信じる信じないは個人の自由だからね。意見が違おうと、どうこう口を挟むつもりは微塵もない。

 でもね、これ、大事なことだから、もう一回言うね。



 俺は、全く、これっぽっちも“信じてなかった”んだよ。



 そう、過去形なの。だって、つまりそれって、今の俺は信じているって言っちゃってるわけだもんね?

 びっくりだよね、ほんと。いや、ほんとに……マジで…………


 もう一回言うけど、別に信じている人を悪く言うつもりはこれっぽっちもないんだ。

でもまさか自分がそっち側に回るとは思ってなかったから、なんというか……本当にすごい衝撃を受けた。


 だって本当に俺は”前世”なんて、信じていなかった。

今思うと”前”があったと仮定するならば、”次”を期待してしまう事を無意識に恐れたのかもしれない。

なんて今ではまるで他人事のように俯瞰して見ることができてしまうけれど。

 別に前世が嫌いなわけじゃなかった。

でも絶望を感じる日がなかったわけじゃない。

それでも、どんなに苦しくても、俺は”今”を手放したくなかった。

必死にしがみ付いて”今”を最期まで生き続けることが、俺にできる唯一のことだったから。

”次”があるだなんて変に考えてしまったら、もしかしたら、”今”を自ら手放してしまったかもしれない。



 ……だから、今思うと”信じていなかった”じゃなくて、”信じたくなかった”が正しいんだろうね。



 で、何で俺が今こんな話をしているのかというと、信じたくなかった”前世”という概念を肯定しなければいけなくなるような、実に非常識な状況に身を置いているからだ。


 ……ん? 急に堅苦しい喋り方になったなって?


 そりゃ、キャラだって変わるよ。

突然脳内で自分語りを始めちゃったくらい、実は俺、今、めぇぇえーーーっちゃくちゃ、パニくってるもん!!!!


 え? 転生したからかって?

察しがいいね、俺が言う前に気づいちゃったの? さすがだねぇ!

 でもね、残念ながらね、違うんだよ。

確かに”気付いた”ときはめちゃくちゃ驚いたけど、もう半年も前の話だし。

第二の人生もイージーモードとはかけ離れたスタートで、まあ色々あったけど、今ではそれなりに楽しく過ごせているから結果オーライって感じだし。


 で、今一番大事なのは”現在の状況”ってやつだよね。

俺が勝手に脳裏で語り掛けている”あなた”が一番気になっているところ。


 それはね、場所は人里離れた崖の上にある荒れ果てた教会の前。

柔らかな風が木々を通り抜け葉が揺れる音が爽やかなこの場にいるのは俺も含めて6人。

 50代半ばくらいの紳士と10歳前後の少女、そして同じく10歳前後の少年が2人、と俺と同い年くらいの少年が1人。

そこから少し離れた場所で対面している。

 ちなみに俺はおそらく6,7歳。正確な誕生日が分からないので断定は出来ないが成長具合からの判断だ。

紳士と少女の少し後ろで、それぞれがお互いに距離を取った場所からこちらを睨んでくる少年たちを眺めている。


 そして、この少年たちが俺をパニックへと突き落した元凶なので、ひとりずつ紹介していこうと思う。



 まずは、腕を組んだポーズで教会の壁に背を預けている、赤目の三白眼と黒髪のオールバックが印象的な少年から。

目つきは悪いけど将来は絶対に美丈夫になると簡単に予想できるくらいの美少年だ。

若干サイズは合っていないようだが、清潔なシャツに身を包んでいる彼は幼い外見とは裏腹に、どこか偉そうで落ち着いた雰囲気を漂わせている。

こちらを見据える視線は冷ややかで、油断なく尖っていてネコ科の猛獣を連想させた。


 もうひとりは、丸太の上に腰を下ろしてこちらを睨んでくる、赤毛の短髪と金色のつり目が目を引く少年だ。

こちらも将来はとんでもない男前になってモテまくること間違いなしのイケメンくん。

だがしかし「あ“ぁん?」とメンチを切ってくる姿はガキ大将を通りこして、どっからどう見てもチンピラにしか見えなくて非常に残念である。

体格の良さも相まって、先ほどの少年がネコ科の猛獣ならばこちらの彼は獰猛な熊を連想させる。


 最後のひとりは、前の2人よりも少し幼い6、7歳くらいの少年で、なんと白銀の髪に赤と金のオッドアイという前世の俺が”うずく”非常に珍しい容姿をしていた。

白い肌に、大きな垂れ目を縁取る長い睫毛。

不思議そうにこちらを眺めている彼は、まるで天使のように可愛らしい。

 ……その手に血の滴るナイフとウサギさえ持ってなければの話だけど。

2人の様子を動物に例えた名残で、ふと脳裏に浮かんだのは血に濡れた鎌を持つ白ウサギだ。

ウサギがウサギを狩るとか、物騒がすぎる。


 で、彼らの、一体どこにパニックになる要素があるんだって?

ただ将来が楽しみなだけの、少年たちじゃないかって?


 そりゃあね、「俺だってイケメン爆ぜろ! 羨ましいなんて、べ、別に思ってねぇんだからな!」的なことを言いたいよ。

なんだったら見っとも無く地団駄だって披露しちゃう。

 でも、残念なことに、それどころじゃない。

……そう、それどころじゃ……ないんだよなぁ…………!!


 将来、彼らがどれだけモテまくって羨ましい状況になろうが、そんなこと知ったこっちゃないんだ。

いや、ほんと羨ましいことこの上ないけど。

そのポジション俺に代われ!って思うだろうけど。

 でも今は兎に角、そんなのどうでもいいんだ。関係ないの。


 問題なのは、俺が初対面なはずの、彼らを”知ってる”ってこと。



 だって、俺、こいつらに、超、”見覚え”があるんだもん……!!!!



 呑気に容姿の説明とかしてたけど、ぶっちゃけあれ、確認を含めた現実逃避だったんだ。

 ”見慣れた”姿よりも、ずっとずーっと幼いけど、でも、間違いない。

ほんの少しではあったけど、ちゃんと”描かれていた”し。

いくら”前”の記憶だとしても、ファンだったし、なんなら彼らは俺の推しでもあったわけで、見間違えるとか、ありえない。



 でもさぁ……!

なんでよりによって、”こいつら”なの……?

いや、嬉しいよ? さっきも言ったけど、ファンだったし、推してたわけだしさぁ……!!


 だけどさぁ!!

だって、こいつら、あれじゃん!!



―― ラ ス ボ ス じ ゃ ん !?!?


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