第八話 伴出、お願いする
「は、はぁ、それはまたなぜですかにゃ」
「深い理由はないんだけどさ、頼むよ」
「にゃーの一人称をボクにして、サワキ様の名前をサワキくん呼びしてほしいと……」
「そうそう、その方がホラ、距離が縮まるんだよ」
「そ、そうおっしゃるなら努力しますにゃ」
「サンキュー」
呑気に話すサワキとルーシーの後ろで二人を恨めしそうに見つめるこれまた二人組がいた。
「なーお二人さんよ、なに考えてんだい?」
「僕達"ラストファイターツイン"を檻から出したかと思えば着いてこいだなんて」
「しかも本拠地に案内しろと? カッパ……失礼、サワキ殿は自殺願望でもあるのか?」
「いいからいいから、任せて任せて」
「ネコちゃん、君のご主人様はなにを考えているんだい?」
「正直言うと、にゃ、ボクも心配ですにゃ」
「オレも心配だけどなんとかなるさ、いざとなれば君たち二人には人質になってもらう」
街道は起伏が少なく地面も綺麗だったため思ったより早いペースで進むことができていた。このペースならコンデイトなる町までも比較的すぐに到着できそうだ。
しかしそうはいかない。たまにあった人影も、一日たつ頃には急に寂しくなりはじめ、徐々にだが雰囲気が怪しくなってきた。
「コンデイトと西ワガサをつなぐこの街道は僕らにとっても人気のスポットでね」
「おかげで今じゃ旅人はほとんど遠回りしている。ここを通るのはしっかり護衛をつけたり武装したパーティーかバカだけだ」
そうこうするうちルーシーが耳をピクピクしはじめた。優秀な感覚である。なお、ルーシーは猫耳の他に、隠れてはいるが人間と同じ耳も持つ四つ耳である。グランゾートのラビと同じと思ってもらえればわかりやすいだろう。
「サワキさま、サワキ君」
「うん」
サワキは足をとめてがオティの剣、つまり刀を抜く。鏡面にまで磨かれた刀身が光を吸い込んで鈍くも眩しく光を反射させた。
「出てこい、ボスは預かっている」
サワキが言うと同時に、道の両側の草むらから矢が飛んできた。当たりはしなかったがさすがに矢を落とすような戦闘能力はサワキにはない。
「お、おい、なんとかしてくれ」
二人の盗賊ムツとシンに頼むサワキはまさに腰抜けといった様相であった。
「……矢を射るときはよく狙えといつも言っているだろう!」
「出てきなよ、わざと外したんだろ?」
二人の声に反応して何人かの盗賊が姿を現した。よく訓練されているようで、効果的な擬装をした者達であった。
だからこそ妙である。やろうと思えばサワキ達だけを排除して二人を取り戻せたはずなのだ。ムツとシンはそれに気づいていたのである。
なにがあったかを問いただすと、盗賊のその口から重要な情報が語られた。
「なに? サジフが頭におさまった? サジフってあのサジフか?」
「ええ、あのサジフです、お二人の直接の部下だった」
「あいつは軍に討ち取られたはずだけど」
「そうなんですが、お二人が出てってすぐにもどってきたんです」
「そして、一気に盗賊団を束ねた、と」
「そうなんですよ、あいつなんと魔法を覚えて帰ってきたんです。それで誰も逆らえなくて……」
「ねえシン、あの銃をよこした奴ともなにか関係があるのかな?」
「たしかに、ちょっとにおうな」
「サワキ君サワキ君」
「なに?」
「ときどきこう考えることはありませんかにゃ? 今いるこの世界は偽りのものだと」
「……どうした急に」
「いや、なんとなく」
「まぁ、そうだな、あるよ、ここ数日特に」
「へえ。ボクもいつも思ってるんですにゃ、このアリイアとは別の世界があるんじゃないかって」
「ミーシャ、おまえもしかして、オレの事情を……」
「実はこの世界は巨大な宇宙船で、本当は今の時代より数百年は経っていて、ボク達は過去を模した世界で生かされているんじゃないかって」
「……ん?」
「そして、ある日ロボットに変形するバイクを手に入れたことから世界の謎をめぐる事件に巻き込まれていくんですにゃ」
「ねえ、それメガゾーン23の話してない?」
「してないですにゃ、なんですかにゃそれ」
「いや、違うならいいんだ」
「そんな物語の主人公の声は後にワクワクさんと呼ばれる工作マスターになるんですにゃ」
「いやメガゾーン23(1985年)やん」
「お二人さん」
「話聞いてないよね」