第52話 伴出、見分けがつかない
「て、敵襲!」
バリー達が騒ぐ。
「ええいこうなっては仕方ない! 強行するぞ!」
カムフラージュを解いた一人がもう一人に声をかける。斥候は二人らしい。
「へへ! 手柄をたてちまえばこっちのものよ!」
「フラグを建てるな! 例のブツの記録を取ったら即座に撤退だ!」
二人の斥候が外套を翻すと、その下にはなにやら鎧を纏っているようだった。
「革? 金属? なんだあの関節は?」
セリーナの呟きである。
彼らの纏う鎧はどうもおかしい。騎士の着るような甲冑とはどこか雰囲気が異なるのである。全身に着込むというより鎧に抱きしめられているかのようなのだ。
「合成ゴムだか繊維だかの類かな?」
サワキもふと口にする。その鎧は妙な光沢のシートが全身を包み、それに装甲がついているという印象なのである。セリーナの疑問のように、関節からその素材が見えているのだ。
「のわー!!」
挑みかかったバリーが無造作に部下らしき方の斥候に投げられた。凄まじい筋力だ。
「怯えてやがるぜ、このメスお兄さんはよぉ!」
「よし、バルブ開放! パワーで押し切るぞ!」
上司が叫ぶとボンッという小さな爆発音とともに二人の甲冑が大きく膨れ上がった。
装甲が軋み、ゴム質の素材が唸る。その場にいる全員が動揺の声をあげた。
「AMスーツ! AMスーツだこれ! 大槻達樹はどこ!?」
サワキ一人だけ動揺の意味が違ったが、ゲーム版の方かよというツッコミはなかった。ツッコミ役が不在だからだ。だから代わりに読者の君にお願いしたい。いくよ、せーの! スプリガンルナヴァース(1999年 フロム·ソフトウェア)の方のかい!
うだうだと騒いているうちに斥候はその力を存分に活かし、群がってくるブレディールの猛者をちぎっては投げちぎっては投げしはじめた。その姿まさに怪力無双。
「ちびっこ相撲に出てきた本職の力士かな?」
「······そうだ勇者くん、君の力を見せてくれないか?」
セリーナからの提案だ。
「え、あんなの無理なんですけど」
「なんでも君は不思議な力を持っていて魔法技術を無力化できるそうじゃないか。あれもなんとかなるだろう?」
「でも丸腰じゃあさすがにアレでしょ? 丸越和人だって強化外骨格に素手では挑まんでしょ」
「それがどちら様かは知らないけど······」
せーの! それ『まるごし刑事(北芝健原作・渡辺みちお作画)』だろ!
「サワキさん! 武器ならここに!」
物陰から駆け寄ってきたパトリシアが手にした棒のようなものを投げて寄越す。
空中で包みの布がとれたそれはいい具合にサワキの手に収まった。
「こ、これは······!?」
鞘から抜かれたその剣は幅広のブロードソードで赤を基調とした装飾やインレイが施されている豪華なものだった。
「なんだこれは。す、すごそうな······あのー、レイアースとかであったような見た目だね。あのへんの年代のやつ。異世界繋がりかな?」
「ほう、それはここいら特有の剣だよ。それはかなりの業物だね。ただ、フフ、言っちゃなんだけど君には似合わないね」
セリーナがクスクスと笑う。
セリーナの微笑む顔をパトリシアがじっと覗き込んだ。
(······かなりの美形! やはりこの人こそがルーシーさんの想い人ではないでしょうか!?)
「ああ、たしかにな。こんな剣はオレよりあんたの方がよく似合うだろうさ。なんなら胡蝶蘭の方がよく似合いそうだぜ」
「おや······」
セリーナが帽子を目深に被りなおした。
(サワキさんの皮肉! ルーシーさんを巡ってのイザコザがもうはじまってると見ました!! あれ? ルーシーさんとサワキさんって恋愛関係ありましっけ······? わからないけどその方が面白そうだからそうしておきましょう! それに、あそこまで美形ならいけない趣味のサワキさんも怪しいですからね! なんにせよ爛れた三角関係の予感がしますよこれは!!)
一人でフスフスと鼻息を荒げるパトリシアをよそに斥候の二人はサワキを警戒しだした。
「······なかなかの腕前とお見受けいたした」
上司にあたるであろう方が丁寧にサワキに語りかける。
「そ、そう? いやー見る目あるねあんた! ミルメークだね!」
せーの! 『ミルメーク』は、大島食品工業(株)の登録商標です!
ところでサワキはミルメークなどと応えたが、実際のところなにをどう見てサワキをできると見抜いたのかは不明である。
「手前がお相手仕る! いざ参られい!」
「よし! てやーあぁぁぁあ??」
サワキが剣を構え駆け出したところ、ガクンとした妙な手応えと金属音が響いた。
サワキが剣を見ると刀身がなかった。いや、刀身が垂れていた。
パトリシアから渡された剣はいくつもの刃がワイヤーで繋がったものがひと塊になったものだったのである。それが伸びて地面に垂れたのだ。
「何だこりゃ!? 蛇腹剣!?」
「武器屋の店主が言うには達人向けの高級品だそうです! あなたなら使いこなせますよ(笑)!」
パトリシアが半笑いでサワキに言葉をかける。
「使いこなせるわけないだろガリアンじゃないんだよ! それでなくてもオレはガリアンとゴーグとヤマトタケルの見分けもついてないんだ!」
せーの! 色で見分けろ!
* * *
ルーシーは部屋でぼんやりと空を眺めていた。
「はぁ〜」
猫の口の臭いのするため息である。色々と悩む年頃なのだ。
ドンドンドン!
「はうわっ!」
突然のノックにルーシーが驚いているとドアの向こう側から大きな声が聞こえてきた。
「猫氏! ルーシー氏! 大変なんだ!」
どこかで聞いた声。ブレディの3Bの一人である。
「ど、どうぞですにゃ」
ルーシーがビックリして毛羽立ち通常の四倍ほどの太さになった尻尾を気にしながら扉を開けると、そこには一際背の高い男がいた。
「えーど、べ、ベリぅュン、さん、どうかしましたかにゃ?」
ルーシーは名前を覚えていなかった! ベルかビューンであることはわかったがどっちなのかわからなかったのだ! 故に誤魔化す方針で行くことにしたのである!
「大変なんだよルーシー氏! 敵が現れて長とサワキさんが戦っているんだけど、どうもサワキさんが『TAKARAのアザルトガリアンはスナップフィットのようでスナップフィットじゃない、穴の大きさが合ってないからそのまま組めない』とか喚いて戦いにならないらしい! 長も敵もほとほと困っている状況なんだ! 助けてくれ!」
「それも大変ですけど人の名前に氏をつけるのご遠慮願えませんですかにゃ。古のオタクか忍者ハットリくんだけですにゃよそれ」
「あ、ああ、すまない取り乱してしまって。状況が状況な上にルーシーさんにも名前を覚えてもらえてない上にそれを誤魔化そうとされてもっと混乱してしまったんだ······」
「さあ現場へ行きますにゃよベリぅュんさん!」
背の高い彼がベルなのかビューンなのかは第43話あたりを参照されたい。




