第49話 伴出、笑われる
サワキは大通りから外れて少し高台になったところにある大きな屋敷に連れてこられていた。
そこは資料がいくつも展示されており、どうも資料館のような性質を持っているようだった。
「客を入れるぞ」
男が部屋の奥の方で小さく座っているまだ年若い人間に声をかけた。
そこはただの部屋としては大きいが展示室としては小さかった。なにより様々な物があるためどうも狭苦しい。
「どうも。管理人さんかなにかですか?」
頭を下げてからサワキは展示物を細かに見る。そこからはブレディールに古来から外敵の侵攻があったこと、それと対峙していたことが細かに読み取れた。
「他には?」
サワキが何度か歴史を描いたエリアを往復して大男に尋ねた。
「他に、とは?」
「なにかしら資料です」
「そこにある分だけだが?」
「ふーむ」
サワキは周囲を見回している。その様子を見て男は少し苛立った。
「なにが疑問なんだ」
「いやね、どうしてこんなものを見せるんです?」
「わかってるだろう? 我々の歴史を知ってもらうためだ」
「ここにある資料がそれだと?」
「そうだ!」
語気を荒らげて男が答える。
「たしかにここには外敵と長く戦ってきたことがしれっと書かれていて、武装地帯であることが嘘にならないように表されている」
「なんだ、なにが言いたい? 誤魔化してると?」
「ここは、断りきれない余所者に対してとりあえず見せて満足させるために用意された資料館でしょう? 現実的だが矮小化された歴史だ」
「う、ぐっ!」
「これらの資料はある秘密の発覚を最小限に抑えるためのものだ。そうでしょう? 長さん」
サワキは部屋の奥にいた人間に声をかけた。
「お、おまえ······!? なぜあの方が長だと!?」
男はさすがにしどろもどろになって聞いた。
「あ、今のは根拠のないブラフです」
「ななななななにぃ!?」
「ですが、この部屋の構造からある重要な判断を下す人間であることはわかりました。それが長かどうかは知りませんけどね」
「······」
長と思われる人間が注目しているのを確認するとサワキは続けた。
「その重要な判断とは、ここに招いた人間を“消す”かどうかです」
サワキは笑顔で指摘する。
「······」
「ここは入るところも出るところも一つだけ。奥に進むにはわずかに入り組んでいて長のいるところまでは一気に進めない上に扉がある。おそらく外は人が回り込めるようになっていて、ここに人を閉じ込めた上で取り囲むことができるようにできている。ここは最初から罠としてつくられた建物ですよ······あ、しまった」
飄々と語るサワキの後ろで嫌な気配があった。小さく金属の擦れる音。
男が抜いた刃物が光を反射してサワキの目元を掠める。
「ちょちょちょちょっと待って! 待ってくださいって!」
サワキは光を目で追いながら長とされる者の方に手を振り、さらに話を続けた。
「シノファリオが不可侵に徹している理由は地理的な理由だけではないでしょう! シノファリオはもとよりセルディもこの辺りはまるで手を出そうとしていない! なぜか。それこそがこの土地の秘密です!」
光の動きが止まる。
「その秘密による均衡がシノファリオの鉄兵士によって崩れるかもしれないことはもうお気づきですか!?」
「シノファリオの鉄兵士······!?」
「オレは鉄兵士による危機を止めるためにシノファリオへ行きたいのです。ぜひお力添えを」
「知った口を!」
サワキの後ろで男が動く。
「待てジガン!」
奥の部屋に座っていた長が制止した。初めて発せられたその声は意外にも美しく優しいものだった。
「し、しかし!」
「······話をしようか、元勇者オティ」
長の発言にサワキの表情がどこか興味深そうなもの変わる。
「元ォ?」
ジガンはよくわからないらしく訝しげに前にいるサワキを見るだけだ。
「んー、それは間違いですね。オレは元勇者じゃありません」
「······今も勇者だと?」
「いいえ、オレは元から勇者なんてものじゃありませんよ」
サワキからは見えにくいが長が笑ったような気配がした。




