第47話 伴出、湖に着く
ザクザクと地面を歩く音が町の灯りに迫る。サワキ達はなんとかまだ薄暗闇と言える時間にブレディールに着くことができた。
港町としてはあまり大きくはないが、十分な規模である。むしろ迷いの森なんてものと巨大な湖に隣接している割には大きいと言えるだろう。
「危なかったべ、もう少しで迷いの森に飲まれちまうところだった」
「無事でなによりですなガハハ!」
「さあもう帰るべ。あんたらも好きにしたらいい。我々はもう知らんでな。ほれ、あの町の中央を走る大通りに宿屋もあるからな」
「ありがとうございます」
「ところでボク達は船に乗りたいんですがどこかで乗れますかにゃ?」
「······さあなぁ。無理じゃねえかな」
「無理ですかにゃ?」
「誰も応じちゃくれねえよ」
「やっぱりあんたらの海賊船にはそこいらの旅人は乗せられないのか?」
「なにぃ······!?」
「ああ、海じゃないから水軍とか船党とか言うべきなのかな?」
「海賊? サワキさんなにを?」
「ああ、彼らはブレディール湖を縄張りにしてる海賊の類ですよ、おそらく」
「またまたぁ、バリーさん達森にいましたにゃよ」
「もう暗くて見えないけど、シノファリオとは違う方角のかなり遠くに対岸があるようだ。さらにあの先にはなにがある?」
「えーと、たしかあの先をしばらく行くと······」
「オレの予想ですけど、別の国では?」
「ああ、そうです! トウ国との国境があります! まあしばらくは緩衝地のようなものがありますけど」
「ミーシャ、ちなみに今ここはなに国?」
「サイ国ですにゃ」
「ブレディール湖があれだけの規模の水源であるにも関わらずあまり拓かれていないのはここがサイ国の端にあたるからだろう」
「それがなぜ彼らが海賊という理由になるのですか?」
「シノファリオがいないから」
「どういう意味ですにゃ?」
「シノファリオはあのルプス山にまで検問をはってるのになんでここまでは来ていないんだ? 大きな湖とはいえまるっきりブレディールはフリーだ」
「ですから、その港町ブレディールがあるから······」
「なぜブレディールがあると出張ってきたくないんです? わざわざあの環境の悪い氷の山には人を割くのに」
「それは······」
「ブレディールが辺境武装集団だからでしょう。いわゆる賊。でも退治するより放置した方がメリットが大きい。なぜならブレディール湖は隣国との境であり、たとえばシノファリオにとっては湖一帯を監視する方がコストがかかるから。そしてブレディールはブレディールでシノファリオと不可侵を結べばこの辺りをいつまでも誰にも邪魔されない縄張りにできる。もちろん基本的には半農半漁の港町なのでしょうけど。だからここの人間は誰もシノファリオまでは出たがらない」
「そんな······いえ、まさか」
「パトリシア様がこの辺りのことを知らなかったのも無理ないんですよ。ここはセルディ領でもシノファリオ領でもない。ここはどこでもないんです」
「さあ、いったいなにを言っているのかおら達にはさっぱりーー」
「その通り! よくわかったなサワキ選手!」
「コ、コウヘイ! やめるべ!」
「いや、俺はブレディール最高の審判としてフェアに答える必要がある! 連盟の規則にもそうある!」
「······まあコウヘイがそう言うなら」
「コウヘイがそこまで言うなら仕方ないべ」
「他ならぬコウヘイの判断だ。従うぜ」
「コウヘイさんすごい信頼度ですにゃ」
「ほぼ君たちの予想通りだよ。このブレディールは我々の領域として暗黙の了解を得ている。そしてだからこそ君達の目的の通りにするわけにはいかないんだ」
「そうかぁ。まあとにかく後のことは後で考えるさ」
「すまないね。お詫びに宿屋にはこちらから取り計らって無料で休めるようにしておく。しばらくブレディールにいてもかまわないよ」
「なるほど。自分達のことを知ってほしい、その上で他言しないでほしい、と」
「そう受け取ってもらって構わない」
「わかったよ。でも、重要な用事だったんだがな。シノファリオが鉄兵士を蘇らせたとあっちゃ、あらゆる軍事バランスがおかしくなるだろうし······とりあえず宿に行くか」
「······なんだって?」
「さあコウヘイ、おら達も行くべ。しかし、コンパスだのなんだのがあるからってあの迷いの森をものともしないとは。やっぱり変な人だなあんたは」
「なんだチミはってか!?」
「言ってませんにゃよ」




