第42話 伴出、詳細を求める
「なんだか景色が変わったな」
ブレディールの近くでサワキがぽつりと呟いた。
乗せてもらった荷馬車を降りた後一行はしばらく歩いた。すると道中で見えていた景色とは風景がどんどん変わっていったため驚いたのである。ずっと緑の平野であったのに、今いるのは枯れたような尖った木々が散漫にある薄暗い荒野じみた森なのだ。
「不気味な雰囲気ですにゃね」
「私もブレディールに赴くのは初めてですのでこうなっていたとは知りませんでしたわ」
今サワキには頼りのオティの剣がない。シンとムツの二人から譲り受けた大きめのナイフが一振りあるだけである。後は無可動の銃。そしていつの間にか荷物に入れられていた学研ボーイズコマンダーである。
「家宝だと言っていたのに、へへっ! セイカさんらしいや!」
ボーイズコマンダーを手にしながらサワキが鼻をこする。
「いやガラクタ押し付けられただけですにゃよそれ」
「これオレが女の子になったらママレード・ボーイのボイスメモ(1994年 バンダイ)とかになるのかなぁ」
「え、サワキくん女体化予定なんですかにゃ? TSものは市民権を得ているようでもうあと一歩というのが概ねの見解だと思っていますにゃよ」
「いや、なんかキャラ自体入れ替えになるんだって」
「なんのことかわかりませんが、美少女遊撃隊バトルスキッパー(1995年 ビクター)みたいなものですね?」
「パトリシア様二度とその名前は口にしてはなりませぬぞ······」
「でもTS展開に目をつけるあたりさすがですにゃねー。親友といかがわしい関係になるTSものの同人誌のシリーズで男の姿のまま親友とシンメトリカルドッキングすることになる外伝的な巻だけ買うだけのことはありますにゃ」
「サ、サワキさん······」
「いやそこがTSもので一番美味しいところだろうが! カニミソだろうが!」
「そんな漫画とかアニメみたいな展開ばかり追っかけてないで地に足のついた理想像を追うべきですにゃよ」
「こんな小説で出てくるお説教の文句とはとても思えませんねそれ······」
「そうは言うがな、たとえばミニ四駆界隈なんかすごいんだぞ。小学生を恐喝する奴がいたり部品を盗む奴がいたり、マシンを見せてと行って密かに壊してライバルを減らそうとするダークレーサーが実在してるんだぞ。他にもどこそこの店のレースに違法改造集団が現れたとか噂になったり、露出の多い服装でスタートを惑わそうとしたり速いマシンを男に献上させようとするハニーレーサーがいるんだ。なんで誰もなにもしてないのに勝手にホビーアニメのような世界になってるんだよあの辺」
「ボク達なんの話を聞かされてるんですかにゃ······」
「サワキさん隙あらば世界一役に立たない知識を植え付けてこようとしますね」
「あ、よかった人がいるじゃないの。おーい!」
サワキから見えたのは薪を拾っているらしい数人の人達だった。
手をふるサワキ達を見るとその人達は不思議そうに顔を見合わた。
「待ちなよ。あんたらこの森を抜けてきたのかい?」
「そうだけど」
「本当に人間かね?」
「ボクは猫人間ですにゃけど」
「いや、そういう意味じゃあねえ。ここは迷いの森だ。地元の人間でも決まったルートからはそうそう離れられねえ」
「迷いの森だって? 詳細キボンヌ」
「こら! サワキくん! 詳細をキボンヌしたらダメですにゃでしょ!」
「キボンヌ」
「この時代にキボンヌはやめるにゃよ! めっ!」
「キボーヌ」
「いやな、たとえあんたさんみたいな獣人でも迷うってほど景色が単調でしかも土地が歪んでやがるんだよ」
「そうでしたの? 私達はコンデイトから来たのですが、この辺はそんな場所でしたかしら?」
「いやあ前まではそうじゃなかったんだけどな。今はコンデイトまで抜けるのなんてちょっとやそっとじゃできねえべさ」
「へえ。サワキくんが前に立ってましたけどよく道がわかりましたね」
「これコンパスついてるしな」
ボーイズコマンダーをふりふりするサワキ。
「コンパスっつっても効かねえはずなんだけどねぇ。あんた魔物かなにかが化けてんじゃねえかい? そのバンダナの下に角でも生えてんじゃねえか?」
「ムキーッ! サワキくん! この薄情な人達に、バンダナをめくって見せておやりにゃ!」
「いやオレは青沼静馬かーい!!」
「今のはボクが悪かったですにゃけど、あっけなくネタバレするのやめるにゃよ······」




